研究内容
私が現在行っている研究は、ニュートリノの実験的研究です。岐阜県の神岡鉱山の地下で東北大学が中心となりカムランドという実験を行っています。これはカミオカンデやスーパーカミオカンデに次ぐ第3世代のニュートリノ研究です。
私は東大にいた時の1980年頃からカミオカンデの実験の準備を始め、その後スーパーカミオカンデの開発研究、建設を行ってきました。
10数年やっておりますと、そろそろ違ったことをやりたいという思いが強くなりました。カミオカンデやスーパーカミオカンデは東大中心でやってきたので、新しい研究となるとそこから出て、他の場所で研究を行わなければなりません。12年前に東北大学でニュートリノの研究を行うグループを作るという話を受け、新しいニュートリノの研究を行なおうとプロジェクトを立て現在に至っております。カミオカンデやスーパーカミオカンデは水を使った巨大タンクのニュートリノの検出器です。我々は発光量が多い油を1000トン使いカミオカンデやスーパーカミオカンデで検出できないエネルギーの低いニュートリノを捕まえるところに特色があります。プロジェクトの提案から6年の歳月を経て、1000トン液体シンチレータ・ニュートリノ/反ニュートリノ検出器“カムランド”を完成させました。
では、カムランドで何を研究しているかといいますと、一つはニュートリノの質量の検出です。ニュートリノは3種類の存在が確認されていますが、その内の一つに質量を有していることが、初めてスーパーカミオカンデによって検出されました。そこで、他の種類のニュートリノ質量の検出を目指すことを主目的にしました。神岡鉱山の周りには柏崎や敦賀、大分浜、浜岡など原子力発電所が沢山あります。原子力発電所の原子炉で生成されるニュートリノを長距離隔てた神岡で検出して、質量の測定を試みました。その結果、2003年に検出に成功し、二つ目のニュートリノの質量の存在を確認しました。研究者の世界では、論文の被引用数が一つの成果の尺度になっています。この原子力発電所からのニュートリノ質量の検出論文は2003年、2004年と物理学分野で世界第1位の引用数をほこり、注目されています。
次の研究標的は、今年2005年の7月に発表した成果です。これは地球の内部で作られるニュートリノについての研究です。地球内部で作られる熱・エネルギーは、中心のコアの運動による地磁気の生成、マントルの運動・対流によるプレートの移動、それによる大陸の移動や地震、火山の誘発など、現在の地球の活動状況の根源です。また、現在、何故、地球内部にこれだけのエネルギー源があるのかという疑問は、地球誕生・進化の歴史と密接に関係します。
これらを解明するには、地球内部のエネルギー源やエネルギー量を直に測らなければなりません。しかしご存知のように、ボーリングを行っても深さ〜10kmが限界です。これまでの地球内部構造は、主に地震波の解析、隕石の化学組成分析、岩石や金属の高温・高圧実験、地表調査等による間接的な情報を基にして構築されています。一方、地球内部の主要なエネルギー源である放射化熱の発生に伴って放出されるニュートリノを捕まえれば、地球内部の熱源状態が直接検出できることになります。この考えは50年も前から提案されていましたがカムランドの出現により、ようやく私達の研究で地球の内部からやってくるニュートリノを測ることに成功したのです。
小柴先生は超新星爆発に伴うニュートリノを捕まえて、ニュートリノ天文学という新しい研究分野を創始されました。私達は地球内部エネルギー生成に伴うニュートリノを捕まえて、ニュートリノ地球科学の道を開いたのです。今後はもっとエネルギーの低いニュートリノの検出を目指して、ニュートリノ物理学、ニュートリノ科学の研究を開拓したいと考えています。
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