クローズアップ 地域と大学 食糧資源としての大豆の活用
村本 光二=文
text by Koji Muramoto

大豆は栄養価の高い「畑の肉」
 大豆は、豆腐・納豆などの食品や醤油・味噌などの調味料として、私たちの食生活や食文化を支えてきました。しかし、国内で生産される大豆は年間20万トン足らずであり、国内で消費する500万トンの大部分は輸入したものです。現在、世界では2億トン以上が生産されていますが、大部分は搾油に用いられ、油をとったあとの脱脂大豆の主な用途は飼料となっています。大豆を加工食品として食べている量は少なく、日本でも約100万トンであり、大半は搾油用です。私はつぎのような理由から大豆を21世紀の重要な食糧資源であると考えています。
 まず、大豆は「畑の肉」と呼ばれるほど、栄養価の高いタンパク質と脂質をそれぞれ30%も含んでいます。そして多くの研究によって、動脈硬化や高血圧、心臓病の予防などに効果があることが明らかにされています。これらの作用は、大豆に含まれるタンパク質とその分解によってできるペプチド、さらにイソフラボンやサポニンなどのさまざまな生理活性物質により生み出されます。脱脂大豆から分離したタンパク質もいろいろな加工食品の物性や食感を改善するために使われています。もっと多くの脱脂大豆を直接、食品として利用すれば、食糧資源を増やすのと同じ効果を得ることができます。このため私たちの研究室では、大豆に含まれるタンパク質の性質や食品としての機能性を調べています。
 食材としてすぐれた大豆ですが、日本で食べられている大豆の量はここ数十年間あまり変化していません。宮城県の大豆作付面積は北海道に続いて全国2位であり、東北地方は大豆食品も豊富です。しかし、県庁所在市別の世帯当りの大豆食品購入額を調べた総務省統計(2005年)によれば、仙台市は納豆では8位ですが豆腐は24位となっており、東北地方における大豆食品の消費量は必ずしも多いとはいえません。



大豆の消費拡大にむけて
 欧米などでの大豆食品の普及を妨げている原因のひとつとして、青臭みを嫌うことがあげられます。この原因物質はリポキシゲナーゼという酵素が脂質を酸化して生成されるものですが、この酵素を欠失した品種が人工交配で作り出されてきました。東北農業研究センターの研究者たちは、この酵素だけでなく、不快味をもつグループAアセチルサポニンも欠失した新品種「きぬさやか」(だいず130号)を開発し、2006年には宮城県の奨励品種に採用されました。
 このような大豆を使えば、くせのない豆腐や豆乳ができ、さらに多くの人々が好む新しいタイプの大豆食品も開発できるはずです。本学の産学官推進本部と豆腐・納豆の大手メーカーである太子食品鰍ェ提案した「宮城県産高機能大豆を利用した脱『豆腐』製品の開発」は、経済産業省の地域資源活用型研究開発委託事業として採択されました。この事業には私たちの研究室も参加し、「きぬさやか」に含まれるタンパク質の特性を調べています。  東北地域で開発された新しい大豆食品が大豆利用の拡大を促し、21世紀の食糧と健康に関わる課題の解決に役立つことを期待しています。



 

むらもと こうじ

1951年生まれ
東北大学大学院生命科学研究科教授
専門:生物資源利用学
http://www.agri.tohoku.ac.jp/hozo/index-j.html

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