1999年の6月1日に、S社から「AIBO(アイボ)」という
ペットロボットがインターネットで試験発売されました。
 高価なものなのに、わずか20分で3千台が
完売となったことで話題となりました。
 人類がロボットと遊び、ロボットの助けを得る時代が
間近に迫っていそうです。
そこで、その問題点を考察してみました。

中野 栄二=文

text by Eiji Nakano




人間とロボットの共生に向けて

人や環境に対応して動くロボット

 このところ、ロボットを身近に感じる話題が続きました。あと10年もすれば、レストラン、病院、オフィスなどで、しばしばロボットを見ることになると思います。おそらく、21世紀半ばころまでには、農地や山地、海浜などの屋外でもロボットが盛んに活躍するようになっていることでしょう。
 これらのロボットの特徴は、人間と共生することです。人間の指令によく従ったり、人間と仲良く同じ活動空間で動くことです。これは、現在工場の中で大量に使われている産業用ロボットとは根本的に違います。産業用ロボットは、あらかじめ教え込まれたとおりの動きを繰り返すだけですから、その動きを遮るものがあればはじき飛ばしてしまいます。ところが人間と共生するロボットは、人間や周囲の環境に合わせた動きをします。すなわち、自律性と親和性があります。自律機能にさらに学習機能が備わって「成長」していくとき、その機械は「ロボット」と言うにふさわしいものでしょう。筆者の研究室でも、人間と共生できるロボット技術の確立をめざして、オフィスメッセンジャーロボット「政宗号」を開発してきました。
 このような、ロボットとわれわれ人類とが共生する時代が、遠からずやって来ます。ロボットは人間にとって欠くことのできないパートナーとして活動しているはずです。
 ただ、そのためにはクリアしなければならない問題がたくさんあります。


ロボットがまだ使われていない理由

 介護の場やその他のいろいろなところで、ロボットに向けられる期待はとても大きいのですが、残念ながら現在のところ、知的なロボットが実際に使われている例はほとんどないのです。知的ロボットあるいは知能ロボットが実際に使われない原因はいくつかあります。
 第一の理由は、現状の知能ロボットのコスト・パフォーマンスがひどく悪いということです。すなわち、大したことができないくせに、購入しようとすると、たいへん高価なのです。上記の「アイボ」は25万円です。そしてこれはオモチャのペット型ロボットです。オモチャだからこの値段で作れるのです。オモチャのロボットは実質的な作業は何もしません。ただ愛らしい動きをするだけです。
 もし何か簡単な作業ができるような知能ロボットを作ろうとすると、価格は一気にひとけた近くは上がるでしょう。それでも、できる動作はきわめて限られています。自律性もごく低いレベルにしかすぎません。
 ロボットが使われない第2の理由は、信頼性が非常に低いということです。言い替えれば暴走する危険がつねにあるということです。
 知能ロボットは数多くのセンサやモータ、コンピュータ、電子回路などの要素部品からなります。それらの部品がすべて正常に機能して初めて使いものになる、1つの複雑なシステム機器なのです。したがって、それらの多くの要素部品のうち一つでも調子が悪いと、期待どおりの動きをしないことはもちろん、暴走の危険すらあるのです。オモチャロボットとは違って何らかの作業をする知能ロボットは、まだ、われわれが安心してつき合えるようなレベルに達していないのが現状なのです。


使えるロボットを作る条件

 知能ロボットに関して、上に述べた2つの大きな問題点をクリアできる可能性はあるのでしょうか。まず、ロボットの「コストパフォーマンス」の点ですが、世界中で数多くの研究者が知能ロボットの機能の向上をめざして日夜研究しています。この10年間のロボットの機能の向上は驚くべきものがあります。まだまだ不十分にしても、もしロボットが実際に使われれば、急激に機能が向上していくでしょう。ただ、コストは、やはり実際に使われ、大量生産されないとなかなか安価にはなりません。
 次にロボットの「信頼性」の点ですが、正直なところ、世界中のロボット研究者のほとんどは、信頼性の向上に関心を示していません。ロボットの機能の向上の研究には、研究者が夢中になる要素がいっぱいあるのに比べて、信頼性向上の研究は、研究者にとってあまり面白そうな課題に見えないのです。その最大の理由は、知能ロボットが実際に使われていないところにあるのだと思います。
 このような状況を見ると、知能ロボットが実際に使われるようになるのはまだ先のことだと感じられます。でも、絶望的なものでもありません。筆者は次のようにすべきだと考えています。
 まず、民間企業は、ある種の知能ロボットが受け入れられやすい分野を見つけて、これに向けた製品をぶつける勇気を持つことです。S社はまず「アイボ」からこの道を作ろうとしています。O社も似たコンセプトの「ロボット猫」を出す構えです。
 次に、ロボット研究者は、信頼性の向上につながる研究をもっと重視し、その成果をきちんと評価すべきです。これまでのロボット技術の研究開発は、高度な機能をねらうものがほとんどでした。ですが、ロボットを真の産業技術としていくためには、まず高い信頼性で動く技術を確立していくことが重要です。筆者も、民間企業数社と協力して、ある実用の知能ロボットを世に出そうとしています。このロボットでも、信頼性高く動くことが最大の課題です。
 ところで、各地で開かれているロボットコンテストは、機能と信頼性の向上につながる要素を強く持っています。ロボットコンテストでは、ロボットが確実に動かないと勝負になりません。多くの研究者や技術者がロボットコンテストに積極的にエントリーすることで、必然的に信頼性の高い技術が向上していきます。仙台で開催されてきた知能ロボットコンテストでも、年々ロボットの機能と信頼性が著しく向上しています。
 2001年には国家プロジェクトとして「ロボット創造国際競技大会」(ロボフェスタ)が開かれます。これには、知能ロボットコンテストはもちろん、ロボカップやマイクロマウス、ロボット相撲などが参加します。来たるべき人間とロボットの共生の時代に向けて、大会は大いに盛り上がることでしょう。
(注:第12回知能ロボットコンテストフェスティバルは、2000年6月25日(日)に仙台市科学館で開催されます)

脚車輪ロボット「チャリオット2号」 オフィスメッセンジャーロボット「政宗2号」 協調性マルチロボット「BeRoSH」

なかの えいじ

1942年生まれ
現職:東北大学大学院情報科学研究科教授
専門:知能ロボティクス