永 沼 章=文
text by Akira Naganuma
東北大学出版会だより5東北大学出版会の17点目の図書として、国際的に著名な美術史研究家、田中英道文学部教授の20年来の研究の集大成がいよいよ刊行されました。ヴァティカンにあるミケランジェロの最高傑作、システィナ礼拝堂の天井画全体を制作順に詳細に分析したものです。「ノアの大洪水」や「天地創造」のシーンなど、旧約聖書のモティーフが迫力をもって描かれたこの天井画は、従来の定説ではキリスト教的宇宙観の反映とされてきました。これに対して田中先生は本書で、火・水・土・空気という四大元素を中心とした当時の自然観を擬人像として表現し、物質にとらわれた人間の苦しみをあらわしたものである、という独自の見解を展開しておられます。1985年から修復時の足場にのぼってすべての天井画を間近に観察・調査されてきた田中先生ならではの創見に満ちた研究です。貴重な図版も多く、その美しさに圧倒されます。 ゲーテは「システィナ礼拝堂を見ないでは、一人の人間が何をなしうるかを眼のあたりに見てとることは不可能である」と賞賛したそうですが、この本をとおして是非、天才ミケランジェロの世界を存分にお楽しみください。
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