太陽電池が地球を救う
伊原 学=文
text by Manabu Ihara
太陽電池とは光を電気に変換する装置です。構造は比較的簡単で、半導体と呼ばれる物質を2種類重ね合わせたものが一般的です。太陽電池の性能は、発電で得られる電気エネルギーを太陽光エネルギーで割って計算するエネルギー変換効率で評価することができます。現在の太陽電池の効率は一般的なシリコン半導体を用いた場合、15〜20%となります。その太陽電池が、地球温暖化問題を解決する一つの技術として注目を集めています。地球温暖化問題とは、産業活動に伴う二酸化炭素(CO2)の放出量の急激な増大により地球の温度が上昇してしまうという問題です。私たちの生活を豊かにしてくれる電気は、主に石油や石炭といった化石燃料を燃やして発電しているので、その過程で多くのCO2が放出されます。したがって、地球温暖化問題とエネルギー問題とは非常に密接な関係を持っているのです。
太陽光は地球に莫大なエネルギーを与えています。この太陽光を使って太陽電池で発電すれば発電の過程ではCO2を放出することはありません。また、太陽電池の製造時に必要となる電力も数年で発電してしまうので、製造から発電までの総CO2放出量を考慮しても、太陽電池発電は地球温暖化を抑制する重要な技術と考えることができます。
しかし、環境問題に対する意識が高まりつつある現在でも、太陽電池の実用化は期待するほどは進んでいません。例えば、平成9年における住宅用太陽電池の導入戸数は宮城県で約90戸、東京都でも約300戸にすぎません。その最大の理由は高い価格にあります。したがって、太陽電池の本格的な実用化にはその低コスト化が重要な課題になってくるのです。
シリコン太陽電池設置住宅(写真提供 三菱電機)
私たちのグループは1cmの1万分の1から1千分の1の厚さのシリコン薄膜をガス状の原料から作製し、それを新しいアイディアと最先端の技術を駆使して再結晶化させることで良質なシリコン薄膜を合成し、高効率で低価格な結晶太陽電池を作製しようとしています。高い変換効率は単位発電量に対する太陽電池システムの大きさを小さくすることができるので、これは直接的に低コスト化につながります。また、植物の光合成の原理を応用し、色素を用いて太陽光を有効に利用できる新しい太陽電池の開発も同時に行っています。効率はシリコン太陽電池ほどは高くはありませんが、低コストで作製できるため、効率の向上化を図れば実用化の可能性は充分にあるでしょう。安くて高効率な太陽電池が近い将来発売されることになったら、皆さんのお宅の屋根にも太陽電池を設置してみませんか?
シリコン薄膜太陽電池作製装置
いはら まなぶ
1965年生まれ
東北大学反応化学研究所助手
専門:太陽電池、燃料電池、半導体工学、反応工学