地震と地盤の関係を見つめて−


震災対策への視点



図1 仙台市街地の地下の地盤構造(宮城県地域活断層調査委員会資料)



図2 利府ー長町断層帯地震による液状化危険度の予測図 
  (宮城県防災会議地震対策専門委員会資料)

写真1 宮城県沖地震における建物被害の一例

写真2 日本海中部地震における巨大噴砂口


地震被害が相次ぐ日本。それだけに、行政的にも地震防災対策に力を入れております。とはいえ、現実に地震が起きた際には、予想外の被害に見舞われることも見逃せません。
そこで、仙台市内の地震と地盤構造に注目しながら、地震に対する備えについて考えてみました。

柳澤 栄司=文
text by Eiji Yanagisawa

地震の被害と都市の安全性

 日本は、台風、洪水、火山、地震など様々な自然災害が多発する国ですが、東北地方も、地震や津波などの大災害を過去に経験していることは良く知られた事実です。1978年宮城県沖地震では、仙台市内でブロック塀の倒壊などにより27名の犠牲者を出したばかりでなく、建物や橋梁などさまざまな構造物に多大な被害が出たことを記憶されている方はまだ多いでしょう。この地震では、仙台市のライフライン(生命線)である電気・ガス・水道などのいわゆる都市の社会基盤が被災して、都市機能が麻痺するという、地震被害の新しい形態が発生したために、大都市の地震防災の考え方に大きな影響を与えました。
 1995年の阪神・淡路大震災(名称・1995年兵庫県南部地震)は、6,400人を超える犠牲者が発生した歴史に残る大地震で、この地震を契機にして私たち市民生活に必要なさまざまな施設や構造物の地震に対する安全性の考え方が大きく変わりました。従来はこのような直下型の地震による影響は、特殊な重要構造物を除いて一般の構造物では考慮に入れる必要がないものとされていましたが、この地震以降は多くの機関で耐震設計基準の改訂がなされて、重要性の高い構造物については直下型の地震も考慮することになっています。多くの基準では、対象とする構造物の耐用年限程度の期間中に発生する確率の高い最大の地震に対しては健全性を損なわないこと、また、その地域で稀に発生する最大の地震に対しても致命的な損傷を防止することにより、安全性を確保することになっています。

地震動の強さと地盤構造

 地震動は、地殻を構成する岩盤が破壊する時に発生する波動が地表に伝わって、地盤が揺れ動く現象です。地震の大きさは、したがって、その岩盤の破壊領域である断層の長さや幅などの大きさや方向、傾き、ずれ(食違い)の大きさや速度などの震源特性によって変わります。また、地震動が伝わってくる経路にある岩盤の性質や、その場所の地盤の深い所の岩盤の性質や浅い所の土の性質ばかりでなく、それらの構造によっても地震動の強さや性質が大きく変わります。一般に軟らかい地盤では地震波は増幅されて大きな地震力が働くため、地震の被害が大きくなることが知られています。宮城県沖地震の時の被害も、仙台市内では、旧市街地よりも、地盤の条件の良くない仙台市東部の方が大きく、例えば写真 1に示すような建物被害も数多く発生しました。
 一方、平野部に存在する緩い砂地盤では、液状化と呼ばれる現象が起こる可能性があります。液状化現象とは、水で飽和した砂の層に大きな衝撃力や力が加わると、砂があたかも液体のようになって地面から泥水となって吹き出したり、地盤としての抵抗が無くなる現象をいいます。液状化が起こりますと、砂地盤は支持力を失い、基礎としての役割を果たせなくなって、重い建物や構造物が沈下したり傾斜するばかりでなく、地中にあるマンホールや石油タンク、浄化槽など見かけの重量の軽いものが地盤の中から浮上することもあります。写真2には、日本海中部地震の時に見られた直径7mにも及ぶ巨大な噴砂口跡が示されています。液状化が起こると、地面から土砂や泥水が吹き上がるので、被害が一層際立って見えますが、建物の急激な破壊や倒壊は起こらないので、むしろ死傷者は少なくなります。

仙台市内の活断層調査

 活断層とは、「最近の過去に活動しており、かつ、近い将来に活動する可能性のある断層」と定義されています。「活断層」という文字から来る印象では、活発に動いている断層のように誤解されかねませんが、最近の過去といっても50万年前位から現在までの意味ですので、断層によっては随分と活動度が違うものがあります。
 仙台市内でも、大年寺断層や利府―長町線などいくつかの活断層が、例えば『日本の活断層』という本や『都市圏活断層図(仙台)』という地図に記載されています。特に利府―長町線といわれる活断層は、市街地の直下にありますので、その影響が心配されています。図1は、宮城県による最近の地盤調査で判明した仙台の地下の地盤構造ですが、この利府―長町線の断層のずれが見えるのは深さ400m位までで、それより上には断層は及んでいないことが判明しました。しかし、この線を境にして地層が撓曲し、地盤構造がかなり変化しているのがわかります。もし、地下の深い部分で、この断層を震源とする直下型地震が発生すれば、仙台の市街地にも大きな被害が発生するかもしれません。実際、宮城県沖地震の時の地震力は、この利府―長町線から東の地域ではかなり大きかったという報告もありますので、この断層の地震に対しても被害予測をすることが防災上必要になってきます。

地域防災計画と生活の中での防災

 宮城県では、宮城県沖地震の直後から地震地盤図などの調査を行ったばかりでなく、その後も宮城県防災会議でいくつかの震源の大地震を想定して構造物被害や火災など被害想定を行って、地域防災計画を策定しています。図2は、その一例ですが、利府―長町線を震源域(黒の実線と破線で示した部分)とする地震が発生した時の液状化危険度を予測したものです。仙台市もこのような被害想定に基づいて防災基本計画を立てて、防災都市づくりの体制を整えています。しかし、これらの被害想定は、あくまでも、ある仮定に基づいた推定量ですし不確定な要素も多いので、現実の地震被害がこの想定通りになるとは限りません。行政側の努力だけではなく、各機関や各企業が、また、個々人がそれぞれの立場で万一の事態に備え、もし想定と異なる事態が発生しても冷静に対処できるように対策を立てることが重要です。
 宮城県沖地震から20年も経ちますと、市民の防災に対する意識も年々風化してきますし、何よりも地震を経験していない市民の方々が増えていることも問題です。家具の転倒防止器やズレ止めなど簡単な装置だけでも一命が助かる可能性があるのですから、緊急時の水と食料の確保とともに、自宅でも普段からの準備や工夫をして是非地震に備えてお いて頂きたいと願っています。



やなぎさわ えいじ
1939年生まれ
東北大学大学院工学研究科教授
専門 地盤工学、耐震工学