シリーズ◎感染症4 │結核│渡辺 彰

「結核」は古い病気?

 結核は、百年前の日本では毎年数万人以上が亡くなる最大の国民病でした。正岡子規や樋口一葉など多くの方が結核で亡くなりましたし、全国に結核の療養所(サナトリウム)がありました。最近はあまり聞きませんが、もう古い病気なのでしょうか?
 いえいえ、今、世界的にも大問題なのです。世界人口の三分の一近い二十億人が感染していて、毎年一千万人近くが新しく発病し、二百万人以上が亡くなっているのです。日本でも毎年、二万人以上が発病して二千名前後が亡くなっています。海外ではエイズの患者さんに合併しやすい病気としても知られていますが、免疫の力が弱くなると感染・発病しやすいのです。
 また日本では、過去の結核対策の一応の成功によって結核の自然感染の機会が少なくなり、特に若い人たちの結核に対する免疫が弱くなっていることが問題視されています。後で紹介するBCG(ビーシージー)ワクチンによって作られる免疫は必ずしも強くはなく、結核菌が直接感染した際に出来る免疫の強さには及ばないからです。

結核菌の顕微鏡写真/結核の患者さんの喀痰をチール・ネルゼン法により染色したもの。赤く染まって多数見える細長い菌が結核菌であり、長さは1~4μm、直径0.2~0.6μmである。

結核はなぜ起こる?

 結核は結核菌がヒトからヒトへ感染して広まります。原因菌はチール・ネルゼン法という抗酸菌を染色する方法で検出できます。結核菌に感染しても、発病するのは十%前後であり、大多数は結核菌に対する強い免疫を獲得し、一生涯結核を発病しません。不幸にして発病する場合、多くは肺に病巣ができますが、免疫力が弱いと肺以外にもできやすくなります。
 結核は、患者さんの咳で出た結核菌が空気中を漂って広まるため感染力が強いのですが、空気中の病原体が感染する病気としては他に麻疹(はしか)と水痘(みずぼうそう)があります。それらと違って結核が怖いのは、感染後に発病するまで短くて数カ月、長いと数十年後に発症することであり、日本ではこの形の高齢者結核が多くなっています。
 しかも、発病当初は咳や痰、微熱、など感冒(かぜ)と紛らわしい症状が多いため見逃されやすく、感染が広がってしまうのです。特に若い人たちの結核に対する免疫が弱いため、いったん結核をもらうとそれを友人や同級生、職場の同僚などに広める集団感染が多くなっています。

どうやって結核を防ぐか?

 東北大学でも結核対策を中心とした研究所『抗酸菌病研究所』が一九四一年に設置されました。また、国をあげてBCGという結核菌に対するワクチンを接種して免疫を高める政策が取られてきました。現在も、生後半年までにBCGワクチンを接種していますが、結核性の髄膜炎や敗血症(粟粒結核とも言います)を抑えることが分かっています。また、健康診断では、結核の病巣が最もできやすい肺のX線写真を撮影して、症状が出る前や初期の内に病巣を発見できますから、健康診断は必ず受けましょう。
 さて、咳や痰、微熱などが二週間以上続く時や、そのような症状で「かぜ」や「気管支炎」、「肺炎」などとして治療を受けても改善しない場合、および症状が強くなる場合は結核の可能性が高くなります。WHOや日本の厚生労働省も「二週間以上続く咳や痰、微熱」では結核も考えるべき、としていますから、そのような場合には「内科」、特に「呼吸器科」の先生を受診して下さい。東北大学病院にも「呼吸器内科」があります。
 最後に、規則正しい生活や偏らない食習慣の下、過度で長時間の作業や仕事を避けることも大切です。常日頃、自分の体に関心を持って生活したいものです。

東北大学抗酸菌病研究所(現 加齢医学研究所)/1941年、仙台市の北四番丁沿いに設立され、附属病院とも言える生命保険厚生会病院(現 仙台厚生病院)を擁して日本の結核研究と診療のメッカとなり、多くの功績を挙げた。
賀来満夫(かく みつお)

渡辺 彰(わたなべ あきら)
1948年生まれ
現職/東北大学加齢医学研究所
   抗感染症薬開発研究部門 教授

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