震災特別寄稿2 震災による災害廃棄物処理課題と方向性 東北大学大学院環境科学研究科 吉岡敏明

災害廃棄物の量

 今回の東日本大震災によって発生した災害廃棄物(がれき)の量は約2,500万tと見積もられており、宮城県だけでも約1,600万tと、実に23年分の量が一瞬にして発生しています。現在、復旧・復興に向けたシナリオが検討されていますが、先ずこの「がれき」を処理しなければ何も始まりません。しかし、今回のがれき処理には災害発生からの時間的なフェーズの移り変わりへの対応、制度上の問題、被災地域の産業構造によるがれきの種類の違いとそれに対応する技術的な問題など、多くの課題が山積みとなっています。

どうして処理が進まないのか

 「いち早くがれきを処理して欲しい」と誰でもが思っていることですが、2ヶ月たった現在でも行方不明者が9,000人も超える状況下では、慎重に撤去作業を進めなければなりません。この点は、「死」に対する考え方が日本人と海外とで大きく違っているところです。ましてや、津波で被災している状況ではなおさら慎重に行動しなくてはなりません。例えば、地震度による被害が大きかった阪神・淡路大震災のときは、その場で確認作業ができたので、一気に撤去作業に移ることができたのですが、今回の震災は津波による被害があまりにも大きすぎて、その場での確認作業が極めて困難になっています。  また、誰が処理するのかという点でも明確な指針が必要ですが、産業系のものも一般家庭のものもごちゃ混ぜの状態で散乱しています。一応、がれき全てを「一般廃棄物」として環境省が全てを面倒みることにしていますが、「一般廃棄物」となった時点で国が予算を補償するものの、実務を担うのは地元の市町村自治体ということになります。被災した自治体にそのマンパワーがあるかというと、答えは否としかなりません。結果的に県がカバーすることになるのですが、県でも全ての市町村をカバーできる十分な人手が無いという状況です。

適正に処理するために

 がれきや堆積物の種類や性状には、仙台より南の比較的遠浅な砂浜の地域、工場が建ち並んでいた地域と、漁業が中心の三陸沿岸部と、大きく分けて3つのタイプに分類されます。汚染物をほとんど含まずそのまま土木資材として利用できるもの、洗浄程度の簡単方法で汚染物を除去できるもの、環境基準を超え熱処理や溶融処理をしなければならないものです。ほとんどが海底のヘドロを巻上げて堆積しており、過去にどのようなものが海に流れ込んでいたかによって成分が異なり、またアスベスト、有害重金属や破傷風菌などの偏性嫌気性菌の存在の有無は健康被害とも密接につながりますので、きちんとした処理が求められることになります。  では、がれきを何処に集めたらいいのでしょうか。焼却施設や埋立地を新設するには広大な土地の確保と予算が必要ですし、地域住民の了解を得なければなりません。三陸沿岸部では特に土地の確保が困難であることは言うまでもありません。また、中途半端な処理では、未来に大きな環境リスクを課すことになり、その修復にまた多くの時間と費用が発生します。しかしながら、スピード感を持って対応する必要があるので、仮設の焼却施設が必要になります。これを最低限に抑えるには、ある程度の分別をしながら、復興資材に回せるものはリサイクルを進めることが一つの解決策になります。幸いにも、日本ではさまざまなリサイクルの制度があり、技術的にも十分に対応できる状況にあるので、このリサイクルルートをうまく活用して、焦らず、適正に行えば、復興への道にも光明が見えてくると思っています。

閖上地区で発生したがれきの様子

吉岡 敏明(よしおか としあき)

吉岡 敏明(よしおか としあき)
1963年生まれ
現職/東北大学大学院
   環境科学研究科 教授
専門/リサイクル化学、環境工学
http://www.che.tohoku.ac.jp/~env/index.html



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