震災特別寄稿1 巨大津波により変貌した姿を前にして 東北大学大学院研究科 今村文彦

巨大地震および津波の発生

 宮城県沖を震源とした巨大地震および津波が発生しました。東北地方太平洋沖地震と気象庁により命名され、我が国での歴史上最大の規模であり、この地震と津波により沿岸各地で壊滅的な被害を受けました。過去、三陸沖、宮城県沖、福島県沖、日本海溝沿いなど個別地域でそれぞれ地震が評価されてきましたが、今回、一気に連動し巨大地震 が発生したことになります。

今の思い

 1991年に本学工学研究科において災害制御研究センターが発足し、世界で初めて津波工学研究分野が設立されました。現在まで、実践的な津波防災および減災に向け活動を行ってきましたが、今回の大きな被害を受けたことに対し、忸怩(じゅくじ)たる思いを持っております。  今回の被害の実態をしっかりと調査し教訓として残し、今後の対策の見直しや地球システムの中で共生するという我々の生活のあり方を再考することに活かしていくことが 、現在の我々の使命であると肝に銘じております。

80周年、90周年記念講演会

現地調査の開始

 私は津波災害の現場を数々踏んで参りましたが、目の当たりにする今の被災状況は、従来の知識と想像を遥かに超えたものでした。今までの街並みを一変させ、自然の地形のみが広がる風景に絶句しました。様々な甚大な津波の爪痕を残し、地域を一気に飲み込んでいきました(写真参照)。その被害の明暗は、今回の災害の残酷さを際だたせました。  被害の大きかった地域では、津波の実態把握も間々なりません。験潮所も破壊されたために正確な波形は記録されていないので、全国の研究者の方々に連携していただき、 痕跡調査を展開していただいております。土木学会等の関係者が、ボランティアで運営する東北地方太平洋沖地震津波に関する調査および情報集約のためのサイト (http://www.coastal.jp/ttjt/)に集約しています。 今回の津波は二つの地域での姿があります。一つは三陸沿岸で最大遡上が39mを超えるような規模であり、過去の明治や昭和地震津波とほぼ同じような浸水範囲でした。 ここでは、押し波だけでなく引き波の破壊力も甚大になりました。一方、仙台平野のように、最大規模は15m程度ですが、宮城県沖地震津波(連動)の想定を遥かに上回り、 浸水範囲も10倍以上になりました。広域な範囲で長期間の浸水が見られました。

被災地の姿

 今回の大震災を人的・物的被害の面から考えると、津波による被害が圧倒的に広大かつ甚大であります。現時点で死者・行方不明者は2万4千名を超えており(6月2日現在)、その9割以上が水死者と推定されているのです。津波来襲時に目の前で親族・知人を失った心痛は筆舌に尽くし難いものです。想像を絶した激流の前に、何ができたのか?何をすべきだったのか?一つ一つ丁寧に検証することも、辛さを超えて必要であると思っております。  沿岸平野では、海岸線から約5㎞の内陸まで津波が浸水し、地盤沈下も伴い長期浸水しているエリアが広く存在しています。さらに、一般の家屋だけでなく、仙台空港など の重要なインフラ設備や道路や鉄道など交通機能にも甚大な被害をもたらしました。また、地域での重要な交通手段である自家用車を多数失ったことも、復旧・復興への活動 に足枷となっている状況があります。

復興に向けて

 如何にして復旧・復興するか?今後の備えをどうすれば良いのか?国あるいは地域として、基本的な考え方が問われています。「防災」という分野だけでは捉えることのできない、国土や社会構造も含めた総合的な検討が求められています。我々の先人は甚大な災害を乗り越え、かつ、様々な教訓を今の時代にも残しております。まさに、皆さんと心を一つにした、専門性を超えた学際的な検討が必要であり、その一役を東北大学が担いたいと思っております。

今村 文彦(いまむら ふみひこ)

今村 文彦(いまむら ふみひこ)
1961年生まれ
現職/東北大学大学院工学研究科
   附属災害制御研究センター 教授
専門/津波工学、自然災害科学
http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp/



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