シリーズ◎地球温暖化の将来2 新しい暮らしとテクノロジーのかたち 石田 秀輝 text by Emile H. Ishida

 地球環境問題とは何だろうか?

 今あらゆるもののエコ化が進んでいます。エアコンは、この十年で四〇%、冷蔵庫は七〇%も効率が上がり、ハイブリットカーが当たり前となり・・・もちろん生活者の方々も九割近くの方が環境意識を持ち、そのうちの七割が何らかの行動を起こさなければと思っています。では、環境問題は解決に向かっているのでしょうか? 残念ながら、日本では一九九〇年に比べて、家庭のCO2排出量は1.5倍に増加しました(図1)。
 どうしてこのようなことが起こっているのでしょう?私たちの調査では、いろいろな厳しい条件の中でも、私たちのライフスタイルが変わり難いことがわかってきました。車の燃費が良くなるとたくさん乗ってしまう、エアコンの効率がよくなると各部屋につけてしまう・・・こんなことが続いています。そして、環境劣化のバロメーターであるCO2は増え続け、温暖化は進んでいるのです。すなわち、人間活動の肥大化が資源やエネルギーの枯渇、生物多様性の劣化、水や食料分配の問題、急激な人口増加、地球温暖化に代表される気候変動をリスクにしてしまったのです。
 こう考えると、地球環境問題とは、人間活動の肥大化であり、解決には、我慢することなく、それを如何に停止・縮小出来るのかに掛っているようです。環境負荷の小さな、そして心豊かな暮らし方を見つけ、それに向かって大きく舵を切らなければならないのです。

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 自然から学ぶ新しいテクノロジーのかたち

 従来の延長ではない新しい暮らし方を創るテクノロジーはどこにヒントがあるのでしょうか?
 それは自然だと思います。自然は完璧な循環を最も小さなエネルギーで駆動しています。そうなのです、私たちがめざす持続可能な社会を当たり前のように創っているのです。
 そうであれば、今までのような地下資源に頼り、地球に無いものを創るテクノロジーではなく、この自然のメカニズムやシステムを学ぶことで私たちは新しいテクノロジーと暮らし方のかたちを学ぶことができるのではないでしょうか。このような、自然のすごさを賢く活かすテクノロジーをネイチャー・テクノロジーと呼ぶことにしました。

 ネイチャー・テクノロジー

 昼は五〇℃、夜は〇℃を下回るサバンナ地帯に住むシロアリの巣の中の温度はなぜいつも三〇℃なのか? そこから無電源エアコンが生まれました。カタツムリの殻はなぜ汚れないのか? そして、雨が降れば汚れが落ちるビルや汚れの付き難いキッチンが生まれました。泡は熱を運び、弾けるときに出す超音波は洗浄機能を持っています、それで水の要らない風呂のアイデアが浮かびました。トンボの羽は何故凸凹しているのだろう?そこから、新しい風力発電機のアイデアも生まれています(図2)。
 自然は、われわれが見習うべきテクノロジーの宝庫なのです。それだけではありません。われわれは自然から新しい暮らし方の知恵を学ぶこともできるのです。今、そんなテクノロジーが次々と生まれはじめ、それによる新しいライフスタイルも見えてきました。地球環境問題を正面から受け止めれば、そこにはワクワクするような、新しいテクノロジーの世界が広がっているようです。

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石田 秀輝(いしだひでき) 石田 秀輝(いしだひでき)
1953年生まれ
現職/東北大学大学院環境科学研究科 教授
専門/環境科学 自然技術 材料化学 
研究室/http://ehtp.kankyo.tohoku.ac.jp/ishida/
人材養成ユニット/http://www.semsat.jp/
すごい自然のショールーム/http://www.nature-sugoi.net/
(たくさんのネイチャー・テクノロジーの卵が見つかります)

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