自動車静脈産業における産学連携と国際交流 - 資源循環から生まれる人と物の絆 - 劉 庭秀 text by Yu Jonsu

リサイクル改善策の追求と新ビジネスの創出
 日本では、二〇〇五年から自動車リサイクル法が施行されていますが、廃車から生産された中古部品が再利用されたり、鉄、アルミ、銅、白金などを再資源化したり、中古車として海外に輸出しています。このように中古部品、再生資源は、国内に止まらず、世界各国に流通されています。表題の「自動車静脈産業」とは、自動車生産・流通・販売・使用などに係わる分野を「自動車動脈産業」と表現した場合、使用済み自動車になってからの解体、破砕、再資源化、リサイクル、廃棄物処理などをひとまとめに「自動車静脈産業」と表現しているものです。
私は、「環境省廃棄物処理等科学研究費」および「宮城県3R新技術研究開発事業」の研究プロジェクトを通して、宮城県の「みやぎ自動車リサイクルセンター」と共同研究を行っています。
 前者では、日韓における自動車リサイクル制度の運用状況を共同調査し、両国のリサイクルシステムの問題点とアジア諸国への影響を明らかにした上、大学研究者とリサイクル現場が一緒になってその改善策を模索しました。その結果、自動車リサイクル法に縛られない自由な発想が生まれ、法制度を超えた高いレベルの資源循環ネットワークを構築することができました。後者においては、精密な解体実験を反復し、今まで捨てられたプラスチック類の有効利用方法を探るとともに、新しいビジネス創出のための研究に取り組んでいます。

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必要な「物」を必要なところで循環
 本研究科と自動車リサイクル現場との産学連携は、先端技術開発を目指すような内容ではありませんが、国際的な最新動向と情報を共有し、環境・経済・社会における効率の良いシステムを、現場に提案することに大きな意義があります。必ずしも先端技術を適用しなくても、国際的な資源循環の潮流を明確に分析し、大学研究者の知見と研究成果、現場職員の豊富な経験と要望を融合させることで、新しい枠組みを作ることができます。
 実際、自動車静脈産業から生産された中古部品と再生資源は、アジア諸国に流通されますが、人件費の高い日本では廃棄物として捨てられる「物」も、人件費の安い中国では資源となる可能性が高いです。しかし、中国はまだ技術力が低く、低品質のものしか生産できません。また、韓国では、一定の技術力があっても再生する廃棄物が足りなく、日本では再生できる物が低品質という理由で捨てられる場合もあります。つまり、必要な「物」を必要なところで、適正な技術と費用で加工・処理・流通・販売し、さらに循環させることが重要です。

「人」の交流とネットワークが重要
 無駄を省き、資源を有効利用するためには、「物」の循環も重要ですが、「人」の交流とネットワークも重要です。大学の研究者や大学院生が現場に出向いて、油まみれになって現場の人々も一緒に作業しながら、意見交換したり、勉強会を開いたりすることは、両者にとってとても重要なことです。現場の方々は、仕事内容と国際的な展開の意義、環境問題の重要性などを理解することとなり、大きな励みになります。私が指導した留学生の中には、修了してから共同研究先の会社で働いた後、母国に会社を設立した学生もいます。大学と地域の連携は、今、世界で何が起こっているかを知り、それにどのように対応し、交流していくべきかを考えていくための原点です。また、地域の雇用創出、国際的な人材育成と交流にも大いに役立つものです。私は、これからも地域と大学の連携を強めて、国境のない「人」と「物」の絆を広げていきたいと考えています。

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東北大学百周年記念まつりにて


劉 庭秀 劉 庭秀 (ゆ じょんす)
1967年生まれ
東北大学大学院国際文化研究科 准教授
専門/環境政策学、国際環境システム
関連ホームページ
http://www.intcul.tohoku.ac.jp/environsys/index.html


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