「有備館講座」は大学の「地域貢献」活動が注目され始めた2005年3月に産声を上げました。以来、8期にわたる講座が持たれ、延べ2000人の市民の皆さんが硬軟取り交えた講師の話術を見守りました。一方、研究成果を地域に発信すべきことが地方大学の必須課題であると位置づけられるようになった2008年9月に誕生したのが「齋理蔵の講座」です。本年、第2期の5回の講座が「学問で世界一周」という題のもとに開かれ、するどい質問で講師の冷や汗を誘っています。
「有備館」は大崎市岩出山にある仙台藩岩出山伊達家の別荘にして学問所。建物と庭園とが繰りなす四季折々の景色は人々を魅了します。「齋理屋敷」は伊具郡丸森町にある豪商の館。旧街道に面した門から一歩、中に入ると、そこは異空間。何棟もの蔵が養蚕や糸取引で繁栄したこの屋敷の持ち主の豪勢な生活と使用人の働きぶりを彷彿とさせます。
県北・県南の最大の観光施設を会場とした二つの市民講座は、文学研究科の社会に開かれた研究発信の窓となっていますし、市民の皆さんの地域づくりの一つのアイテムとなりました。居ながらにして東北大学の雰囲気を体験できるということに喜びを感じる受講生の輪が着実に拡大しているのです。
恒常的な講座の開催によって、いろいろな花が咲き実を結びました。東北大学出版会刊行の『食に見る世界の文化』『世界の言語』『東北人の自画像』は、有備館講座での講演が元になりました。当日の臨場感ある講演内容はもとより、短時間では言い足りなかったこと、伝えきれなかったことが盛り込まれた3冊は受講生の宝物となっています。難解な用語も辞書をひきながら復習できると好評ですし、何よりも妻や子、孫に自分が受講したことを本のかたちで示すことができるのはうれしいという言葉をしばしば耳にします。
主催は文学研究科ですが、実際に汗を流して運営するのは自主組織である実行委員会と自治体の教育委員会の皆さんです。自発的に会場の設営・撤収が行われます。そして、大学院生の諸君も活躍しています。自身の研究についての毎月の報告は時にはチンプンカンプン、また時には研究への真摯さそのもの。いずれにしても感動をもたらしました。講座開催を通じての交流は「学問の香り」を着実に地域に運びましたし、地域の皆さんからはお褒めの言葉ばかりではなく、いろいろなお土産もいただきました。
講座には大学の持つ「世界の香り」もただよいました。受講生有志のご尽力によって文学研究科の留学生のホームテイが何回も実現したのです。地元の産品がふんだんに盛られたご馳走は印象深いものだったようです。また、深夜まで及ぶ会話によって家族同然になったとも聞きます。「宮城の香り」をかの地でただよわせる約束が実現することを期待するばかりです。
仙台はマスコミや多くの大学が開催する文化講座であふれ、「文化」享受の環境が整っていますが、他の市町村に行くと一変します。まさに「文化」の地域格差が存在しています。研究第一主義の本学にやっと生まれた「地域」へのまなざしがお膝元の仙台のみに向かうことのないよう両講座をはじめとした出前講座の拡充に努力すべきだと考えます。
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