医学教育の改革

大学教育の潮流
堀井 明=文
text by Akira Horii
 東北大学医学部医学科の現在の教育概要を図に示しました。近年の医学教育での大きな変化は、共用試験の導入による診療参加型実習の開始と卒後臨床研修の必修化です。その根底には、高齢化社会を迎えた近年の国民の意識の変化があります。現在、最も多くの人が望むものは「健康」です。その実現のため、医師、医学生の臨床能力をさらに伸ばすことが社会的に求められてきております。
 1991年の厚生省(当時)の「臨床実習検討委員会」の最終報告で、「安全対策を考慮し、大学が学生の能力を評価した上で、患者に同意を得て、患者に被害が及びにくい医行為を指導医の下で学生が実施できる」とされました。これにより、従来「見学型」であった臨床実習を医療チームの一員として加わる「参加型」へと変えることが可能となりましたが、「医行為」を行うための「学生の能力評価」が必要になりました。
 そして、2001年、「医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議」により医学生が最低限学ぶべき内容が精選され「モデル・コア・カリキュラム」が作成されました。これに伴い、「コア・カリ」の内容を学んだかどうかを評価する体制が必要になります。全国の医学部、歯学部の教員が参加して「医療系大学間共用試験実施評価機構」が組織され、臨床実習前に「共用試験」を行い「コア・カリ」の内容をきちんと学習したかどうかを全国規模で判定できる体制になりました。共用試験は主に知識を問う「CBT」と主に技能、態度を問う「OSCE」からなっております。CBTの実施風景を写真で示しました。東北大学の医学科学生は「共用試験」に合格すると5年に進級し、1年間の「第3次臨床修練」で「診療参加型」実習を行います。 「コア・カリ」は「最低限学ぶべき内容」を示すもので、授業時間の3分の2を使います。残りの3分の1では各大学で独自に作成された特色ある内容を学びます。医学教育は従来全てが必修でしたが、新しい「選択性統合型演習・講義」では最先端の高度な内容を選択性で履修します。
 また、東北大学は「研究第一主義」を謳っており、医学部にも毎年研究志向の強い学生が多数入学します。3年次の「基礎医学修練」、6年次の「高次医学修練」では、学生の主体性に任せ、数あるプログラムから選択させ高度の内容を履修します。そして、特に研究志向の強い学生向けにMD―PhDコースも開設しました。これは、学部の四年次または五年次終了時点で一旦休学し大学院に進学、学位取得後に学部に復学し、残りの過程を履修して国家試験を受験するものです。2002年に1期生が進学し、2007年までに6名がこのコースを選択しました。

図:東北大学医学部医学科の教育概要 縦軸は時間軸で、卒後の主な進路も示してある。
図:東北大学医学部医学科の教育概要。縦軸は時間軸で、卒後の主な進路も示してある。


 さらに、厚労省主導で2004年の卒業生から卒後臨床研修が必修になりました。初期研修の2年間に原則として内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療など幅広い経験を積ませ、医師としての人格の涵養(かんよう)とプライマリ・ケアのできる医師の育成をめざしています。多くの学生は5年次終了後の春休みから6年次の春にかけて病院を見学し、東北大学病院をはじめとする研修指定病院で個別に行われる試験を夏休みに受けます。その後、学生側と研修病院側の両者の希望を順位付けして、「マッチング協議会」(http://www.jrmp.jp/)がどの病院で学生が研修を受けるべきか決めます。

写真:共用試験CBT(Computer Based Testing)実施風景。難易度が標準化され評価の定まったプール問題から無作為に学生ごとに別々の問題が抽出され、コンピュータ上で解答する。

写真:共用試験CBT(Computer Based Testing)実施風景。難易度が標準化され評価の定まったプール問題から無作為に学生ごとに別々の問題が抽出され、コンピュータ上で解答する。


 医学教育や卒後研修の改革により医療がどのように変わるのか、ずっと先でないと判断できません。全て良かれと思って進めていることですが、問題点が見つかれば修正する柔軟性を忘れずに続けて行くべきであると思っています。


ほりい あきら

1953年生まれ
東北大学大学院医学系研究科教授
専門・・分子病理学
http://www.med.tohoku.ac.jp/room/131/japanese.html

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