新しい環境・医工学
  
バイオデス・バイシステムの開発に挑戦

末永 智一=文
text by Tomokazu Matsue

 

 タンパク質などの生体分子や動植物の細胞、微生物などの生体材料は、「物質を選択的に変換する」、「情報を受容しそれを伝える」、「環境に応答し適応する」、「自分で修復し増殖する」など、人工で作り出したものにはまねのできない魅力的な機能を持っています。私たちの研究室では、これら生体物質の持つ特異な機能の解明を進め、優れた機能を持つ生体材料を基板に固定したバイオデバイスの開発とその環境、医療、食品分野での応用に関する研究を展開しています。

バイオデバイスの開発
 私たちの研究室では微細加工と局所表面での化学反応を利用し、抗体や酵素などのタンパク質を固定した新しい「集積型プロテインチップ」の作製と解析法の開発を行っています。これまでの研究で、プロテインチップを用いることにより環境中の有毒物質を従来法に比べ約千倍高感度で検出できることがわかりました。このようなバイオデバイスを病気の診断や健康モニタリングへ応用することをめざし、企業などと共同で検討を進めています。
 また、細胞や微生物を利用した次世代型バイオチップの開発も行っています。細胞はそれ自体、高度に組織化された素子と考えることができます。この機能を工学的に利用することは、新しいバイオデバイスを開発する際に重要な課題となります。そこで、細胞や微生物を配列固定した細胞・微生物デバイスの作製(図1)と、新しい候補薬物の探索、オーダーメード医療システムへの展開に関する研究を行っています。

細胞の機能評価
 マイクロメートル、ナノメートルの領域で、細胞応答を電気や光のシグナルとして捉え個々の細胞の機能を評価するバイオデバイスを使ったシステムを開発しています。特に、細胞が作り出す生理活性物質を、単一細胞レベルでしかもリアルタイムで計測することに重点を置いています。このような技術は、細胞工学だけでなく他の分野に対する波及効果も大きいと考えています。例えば、本学の先進医工学研究機構と共同で細胞や受精卵の新しい機能評価システムの開発を行っています。この手法が、不妊治療や優良家畜の繁殖だけでなく、再生医療への展開など次世代細胞工学の根幹をなす技術となることを期待しています。
 通常、遺伝子操作は煩雑なステップから構成されており、手間と時間がかかります。私たちの研究室では、チップ上で迅速にかつ容易に一連の遺伝子組み換え操作ができるシステムを開発しています。このシステムが完成すると、網羅的な遺伝子機能の解析、オーダーメード医療、タンパク質の高速解析などが可能になります。

マイクロ・ナノバイオテクノロジー基盤技術の開発
 生体材料に優しい微細加工技術、溶液や生体物質を動かす技術、ナノメートルの領域で生体材料の機能を評価する技術など、集積型バイオチップを作製するための基盤技術開発を展開しています。具体的には、電気的な現象を利用して、微粒子や細胞を制御配列させる新しい集積化技術や光の限界を超して細胞やタンパク質の様子を観ることができる、新型顕微鏡によるイメージング手法の開発(図2)などを行っています。
 研究室のモットーは、「自由に考え思いついたことをやってみよう。新しい世界が拓けるかも知れない」です。私は、社会と関わりのある研究を行うことにより、研究成果を人々の生活に役立てたいと考えています。

図2 がん細胞(1個)の呼吸活性イメージング

 


まつえ ともかず

1954年生まれ
東北大学環境科学研究科教授
専門:生物工学
http://www.che.tohoku.ac.jp/~bioinfo/

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