ガラス細工シリーズ 2

ヒックマン型油拡散ポンプ

 私たちをはじめ地球上の多くの生き物は空気なしでは生きられません。しかし、実験研究において空気はむしろ邪魔物となるので、しばしば空気を排除した高度な真空状態が必要になります。写真のガラス装置はヒックマンポンプと呼ばれ、真空ラインに組み込まれて、通常のポンプが作り出す真空状態から高度な状態に変える働きをします。原理は、装置の下に突き出した容器に入れた油の分子をヒーターで加熱して気化させ、水平の管の中の右側に開いた円錐形のノズルから発射して空気の分子を右側に弾き飛ばし、左側の部分の空気の圧力を下げるというものです。
 このような理化学用のガラス機器は、その滑らかで美しい形から機械で作られていると思われがちですが、実際は熟練したガラス技術者(glassblower)の手作業によって作られています。ちなみに、理学部には専門のガラス技術者が現在3名います。ガラス管をバーナーで加熱して軟らかくし、息を吹き込んで膨らますと、表面張力の働きで自然に滑らかな美しい形になります。ガラス技術者はこのようなガラスの性質に精通しており、それを巧みに利用して、機能と美を兼ね備えた複雑なガラス機器を作り上げます。本学の最先端の研究の一端は、このように機械には真似のできない高度な技能によって支えられています。

東北大学大学院理学研究科・理学部 
硝子機器開発・研修室長 飛田 博実

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