地域の心のオアシスとして
大島 吉輝=文
text by Yoshiteru Oshima

 豊かな自然が広がる青葉山に薬学研究科附属薬用植物園があります。薬用植物園は、初代園長の故竹本常松薬学部教授が唱えた「全山の草木はことごとく薬草薬木」という考えに基づいて、薬用植物にとどまらず、さまざまな植物の収集、栽培に努めています。解熱鎮痛薬・アスピリンが柳皮の成分をもとにして開発されたという例をあげるまでもなく、私たちは、薬の開発において薬用植物から大きなヒントを得てきました。薬用植物(生薬)は漢方薬としても使われます。さらに、私たちの生活のなかで薬用植物は至るところで使われています。清涼飲料水、菓子、佃煮にはカンゾウやステビアエキスが甘味料として含まれています。芳香健胃薬であるショウガは身近な食物です。薬用植物園では、カンゾウ、ステビア、ショウガはもちろん、バナナ、パイナップル、グァバといったトロピカルフルーツに至るまで、1200種もの植物を観察することができます。ここでは、大切な資源を身近に観察することができる薬用植物園と地域との係わりの一端をご紹介します。

野外薬膳教室
(2004年5月23日、薬学研究科附属薬用植物園にて)

冬虫夏草
(ツクツクボウシタケ、薬学研究科附属薬用植物園にて、矢萩信夫博士提供)

 1973年、竹本教授が中心となり、薬用植物に関心のある有志が集い「日本薬用植物友の会」が発足しました。薬用植物園は、友の会の設立以来、30年にわたって会員の方々に薬用植物の観察の場を提供してきました。友の会は、植物観察会や薬膳料理の講習会を定期的に開催しています。本園スタッフはボランティアとしてそれらに参加し、薬用植物から医食同源にわたる幅広い啓蒙活動をしています。また、友の会が主催する講演会においても、病気と薬に関する話題を提供し、会員とともに知識の向上を図っています。
 皆さんは、昆虫の体内から生える「きのこ」である冬虫夏草(とうちゅうかそう)をご覧になられたことがありますか。微生物である冬虫夏草菌が生きている昆虫に寄生し、菌は昆虫の組織を栄養源として増殖します。昆虫の体内で増殖した菌は、ついには昆虫の外皮から子実体(きのこ)として突き出てきます。冬虫夏草は、中国では昔から宮廷における薬膳料理として一部の貴族階級の人々によって不老長寿を願って賞用されてきました。目を凝らすと、薬用植物園では冬虫夏草を見ることができます。
 2004年10月23日から11月23日には、山形県在住の冬虫夏草収集・研究家である矢萩信夫博士のご協力を得て、東北大学総合学術博物館や理学研究科附属植物園と一緒に「未知の生物資源 冬虫夏草の世界」を開催しました。この企画展には大勢の方々に冬虫夏草の不思議な世界をご堪能頂きました。
 高齢社会の到来や健康に対する社会の関心の高まりのなかで、天然素材である薬用植物の価値が見直されています。地域の皆様には、本園を散策しながら、薬用植物に関する正しい知識を身につけて、それらを有効に利用して頂きたいと考えています。本園では、入園許可証による簡単な申請手続きでどなたでもご来園できます。土日・祝日以外にはスタッフが薬用植物の効能や栽培方法をご説明します。植物は人の心を豊かにします。杜の都・仙台のシンボルである青葉山の大切な自然を皆様とともに守っていきたいと考えています。

 

おおしま よしてる

1952年生まれ
東北大学大学院薬学研究科教授
附属薬用植物園長
専門:天然物化学
http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~yakusoen/index.html

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