市民公開講座を開催して学んだこと

柳澤 輝行=文
text by Teruyuki Yanagisawa

 薬理学とは病気の治療や診断・予防に用いられる薬の効果(なぜ効くのか)と身体の中で薬がどうなるかを研究し、薬についての正しい知識を考える学問です。新薬開発の中心的な役割も担っていて、薬物の有益性(ベネフィット)と有害性・危険性(リスク)を常に考えることから、薬物や医療、有害物質や健康食品などに関係する場ではきわめて重要な学問です。

e-mail:molpharm@mail.tains.tohoku.ac.jp
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http://www.pharmacology.med.tohoku.ac.jp

 大学の外に向かって「知」を発信すること(「知の普及」)がさらに求められています。文部科学省などの援助のもとに市民公開講座「インターネットで入手する薬物の危険性」を10月3日(金)午後、仙台市戦災復興記念館で開催しました。平日にもかかわらず参加者は約140名で、テレビ報道され、質疑も活発で充実感を持って終えることができました。
 社会風潮や、好奇心や手軽な薬を求める消費者心理を背景に、業者の販売至上主義、外国の思惑までもが加わって、危険な薬物、ダイエットピルや健康食品がインターネット市場に出回っています。覚醒剤のように食欲抑制作用や依存性をもつ合法・非合法薬物の健康被害の問題に対して、共感を生む工夫をしながら前述の啓蒙的講演会を計画しました。販売至上主義や「健康よりダイエット」という風潮を健全に批判する精神や「簡単に入手できる危険性」を防ぐ科学する心を養いたいと企画しました。
 内容の一部は以下のようなものです。各人の体型や体重は2つの原因(遺伝と環境)と相互作用で決まっています。安全性と有効性が確かめられていないダイエットピルに医薬品並みの効果を求めるべきではなく、むしろ注意と警戒が必要です。覚醒剤などの乱用については、終戦後、学園紛争時、そして現在が乱用のピークとなっています。統計によると、薬物使用を誘惑された者535万人、内半数の人が一回以上使っています。中高生などへの低年齢化、注射から吸入への移行など、乱用の実態が多様化しています。どのようにして薬物依存になるのかの経緯や、正しい知識を持つことによる最良の防衛まで、公開講座の内容と記録を会場からの質問・感想とともにまとめて私どものホームページに掲げましたので、興味のある方はご覧になってください。
 社会に訴えるとは、強く訴えるものを持ち、充分な準備と種々の関係者との連携、そして市民の問題意識に火をつけることが大切であると改めて学びました。


やなぎさわ てるゆき

1950年生まれ
現職:東北大学大学院医学系研究科、
   
分子薬理学分野教授
専門:
循環器・神経系疾患の新薬開発、
    情報伝達、構造と機能


I N F O R M A T I O N
史料館企画展
「大学アーカイヴズへ行こう!― 公文書のなかの東北大 ―」

 今年は、東北大学史料館の前身である東北大学記念資料室が発足し、東北大学に国内初の「大学アーカイヴズ」が誕生してからちょうど40周年にあたります。本学では2000年12月に記念資料室を「史料館」へと転換し、歴史資料となる大学公文書を「アーカイヴズ」に移管し保存・公開するための取り組みを始めています。
 企画展では、これまでに当館へ移管された学内公文書を中心に、東北大学の歴史にかかわる多くの文書史料を展示公開し、「大学アーカイヴズ」としての史料館の仕事について、ご紹介したいと思います。是非ご来館いただき、「公文書のなかの東北大」をお楽しみください。
●期  間:開催中
      (平成16年3月31日まで・土日・祝日は休館日です)
●会  場:東北大学史料館2階展示室
●入館時間:10時〜16時
●入場無料



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