インターネットを活用した教育の支援
21世紀テクノロジー社会における「学び」の探究

渡部 信一=文
text by Shinichi Watabe

 我が国のインターネット利用人口は2002年度末には6、942万人と推計され、この数は人口普及率54・4%であることを示しています。実に国民の2人に1人はインターネットを利用していることになります。また、インターネットの世帯普及率は81・4%にも達しており、八割以上の家庭でインターネットを利用しています(以上、「総務省情報通信白書 平成15年度版」より)。
 このような高度情報社会のなかで、私たちはどのようにコンピュータやインターネットを教育に活用してゆけばよいのでしょうか? 私たちの研究グループは、幼稚園から大学院までの教育現場で、あるいは家庭において、コンピュータやインターネットなどのテクノロジーをどのように活用すれば教育を効果的に行うことができるのか研究してきました。

不登校・障害児に対する支援プロジェクト
図1 不登校児や障害児の支援サイト『ほっとママ』
図2 『ほっとママ』の端末が置かれたブース(仙台市情報産業プラザ)
図3 『ほっとママ』の専門知識データベース

図4 『マザース・オープン・カレッジ』のトップ画面
http://www.moctown.jp/office/what-moc.html

 1999年4月から2001年3月までの2年をかけて実施した『ほっとママ』プロジェクトは、科学技術庁(当時)から援助を受け、私がプロデュースを担当して実施した巨大プロジェクトです(図1)。このプロジェクトでは、インターネットを活用して不登校児や障害児に対してどのような支援が可能であるかを探究するために、実際に支援システムを開発し実証実験を行いました。大容量の情報を、光ファイバーに匹敵する太い回線を通して仙台市情報産業プラザ(通称‥アエル)と仙台市福祉プラザの端末から利用できるだけでなく、ほぼ同じ内容の情報をインターネット上に公開しました(図2)。

 このシステムの特徴は、支援のレベルを4つに分けたことにあります。つまり、「専門知識データ・ベース(レベル1)」「コンピュータによるカウンセリング(レベル2)」「テレビ電話カウンセリング(レベル3)」、そして「面接カウンセリング(レベル4)」です。レベル1は、それぞれの専門家による全体で480個の「Q&A」と詳しい解説のデータ・ベースです。利用者は、それぞれの専門家が丁寧に解説する様子を動画映像を見ながら、不登校や障害に関する基礎知識を得ることができます(図3)。
 レベル2からレベル4までは、利用者自身が抱える問題に関するカウンセリング(発達相談)です。レベル2は、コンピュータによる「バーチャル・カウンセリング」。これは各領域の先生の専門知識をコンピュータに組み込み、いわば「バーチャル専門家」であるコンピュータとやり取りすることによりカウンセリングを行います。今回の実験ではその第一歩を踏み出したにすぎませんが、今後研究が進めば専門家不足で長時間の予約待ちなどという事態も解消されると予想します。
 レベル3は、TV電話を用いたカウンセリング。これは現在のところ大容量のデータを運べる回線でつながった端末(今回の実験では、仙台市情報産業プラザと仙台市福祉プラザ)でしか行うことはできませんが、近い将来には一般の回線でも行えるようになると考えています。
 レベル4は、実際に対面してのカウンセリング。『ほっとママ』では、レベル2、レベル3とネット上でのカウンセリングを行いましたが、どうしてもそれで満足できないユーザーに対しては従来通り実際に対面してカウンセリングを行うという選択肢を捨ててはいません。これは、どれほどテクノロジーが発展し便利になったところで、人間と人間をつなぐのはやはり「実際に出会うこと」であると考えるからです。
 『ほっとママ』は、運用を開始した2000年4月からの1年間で約50万件のアクセスをいただき、その必要性と効果が実証されたと考えています。なお、2002年度からは『ほっとママ』プロジェクトをさらに拡大した子育て支援サイト『マザーズ・オープン・カレッジ』を公開しています(図4)

未来の学校を考える

図5 未来の教科書『デジタル・テキスト』
図6 コンピュータ・グラフィックス(3DCG)による行動記録

 さて、未来の学校はどうなるのでしょう?私たちの研究グループは、学校における教育とテクノロジーに関してもさまざまな視点から探究してきました。
 その一つが『デジタル・テキスト』プロジェクトです(図5)。これは、現在使用している教科書をデジタル化することによって、どのような教育効果が現れるのかを探究した研究プロジェクトです。このプロジェクトでは現場の先生にもメンバーとして参加いただき、実際に開発したデジタル・テキストを授業で使用していただき改良を加えてきました。
 さらに、子どもたちの身体の成長や行動変化を記録保存するための新しい手段としてコンピュータ・グラフィックス(3DCG)の活用研究も行っています(図6)。これまでは、観察者の記述あるいはビデオカメラによる撮影によって行われてきましたが、コンピュータ・グラフィックスでは過去のデータを自分の好きな視点から再現して観察することが可能です(例えば、上からの視点や後ろからの視点)。また、時間的に異なるデータを重ね合わせて観察することも容易にできます。さらに、ビデオに比べてデータ容量が圧倒的に少ないという利点やインターネット上で公開したり研究のために共有する際にも、プライバシーの問題を避けることができます。今後、コンピュータ・グラフィックスによる子どもたちの記録及びその保存が主流になるかも知れません。

東北大学インターネットスクールの挑戦

 最後に、2002年4月から東北大学に開設された『東北大学インターネットスクール(ISTU:Internet School of Tohoku University)』を紹介します(http://www.istu.jp/)。ISTUは国立大学では初めてのインターネットを利用した全研究科規模の大学院で、将来的には各研究科の修士号や博士号も取得可能になる予定です。私が現在所属している教育情報学研究部では、各研究科が実施するインターネット講義の作成や配信に対して研究的な支援をしています。
 確かに「教育は教室で教師と生徒が顔を合わせて実施すべき」という根強い意見もあります。しかし逆に言えば、はたしてインターネットを利用した「学び」が本当に効果的なのか、あるいはどのような工夫によってより効果的になるのかを探究することは、まさにワクワクするような研究テーマであり、私にとっても大きな挑戦なのです。


わたべ・しんいち

1957年生まれ
現職:東北大学大学院教育情報学研究部 教授
専門:認知科学、障害児心理学
関連ホームページ:http://www.ei.tohoku.ac.jp/watabe/top.html




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