シリーズ【ナノテクノロジー】4
100万分の1ミリのシートを自在に積み重ねる

宮下 徳治=文
text by Tokuji Miyashita


トップダウン型とボトムアップ型

 米国大統領のクリントンが、国会図書館の全資料データを角砂糖数個分の容量に記録させる技術としてナノテクノロジーを推進する提案書がでてから、「ナノテクノロジー」の言葉がマスコミに頻繁に現れるようになっています。これは、シリコン半導体に如何に微細な電子回路をつくるかの努力であり、多くの情報を記録させるための微細加工技術として発展してきています。
 最近では1電子で駆動する電子回路まで提案が行われてきています。このように、小さいナノメートル(100万分の1ミリ)の微細化をめざす技術を「トップダウン型ナノテクノロジー」と呼んでいます。これに対して、ナノメートルより小さい分子やDNA(遺伝情報因子)などを積み木ブロックのように自在に積み重ねて、ナノレベルの素子を作る技術を「ボトムアップ型ナノテクノロジー」と呼んでいます。
 前者が堅いシリコンなどの半導体を用いた電子回路作りに使われるのに対し、後者は柔らかい有機物、プラスチック、タンパク、DNAなどを組み立てて、半導体とは異なった機能や特性を持った素子に関する研究分野で用いられ、環境適合性・感性・柔軟性などの特徴を生かしたセンサー、診断キット、生体系デバイスの分野での開発をめざしています。人間の脳の神経回路を模倣してそのユニットを積み重ねて作ろうとする試みの、基盤的技術にあたります。
 しかし、残念ながらシリコン半導体分野のナノテクノロジーに比べて、後者の技術はかなり遅れており、これからの技術であると思われます。トップダウン型はいわゆる微小化技術であるのに対して、ボトムアップ型は積み木の技術であります。自在のテーラーメードに積み上げる技術の開発が求められています。


(図2)



山形大学
城戸教授提供
 

 

水面上を利用して1分子の超薄膜を作り、積み上げる

 私の研究室では、「ボトムアップ型ナノテクノロジー」として、プラスチックを有機溶剤に溶かし、それを水面上に広げ、有機溶剤が蒸発後、それを静かに掻き集めると薄い(1分子の厚さ)プラスチック(1ナノメートル)のシートを作成する方法を見つけています。この水面上のシート(これをポリマーナノシートと呼んでいます)を上からガラスや金属を横切るようにすることで自在にシートを積み上げることができ、まさしく自在に目的にあった集積体(素子)を作ることができる技術の開発に成功しております(図1)。
 現在、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池や逆に電気をかけると光を発する柔軟な極薄いシートの発光表示素子などが開発され、折れ曲がるテレビなどへの試作が行われています(図2)。
 私たちは、種々の機能を分担したポリマーナノシートを合目的に積み重ね、これらの機能をさらに薄い紙のような物質にも積み上げた素子をつくることなどへの応用をめざしています。また、ガンなどに関わる抗原や遺伝因子を認識するDNA断片をシート上に積み上げた超薄膜の診断センサーの開発などもめざして研究を行っています(図3)。



みやしたとくじ

1948年生まれ
現職:東北大学多元物質科学研究所
   多元ナノ材料研究センター長(教授)
専門:高分子ナノ材料学、ハイブリッドナノデバイス

 

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