教育も
 データによる議論を



荻野 博=文
text by Hiroshi Ogino

 年頭に、教え子だった卒業生から、こんな文面の年賀状をもらいました。「今年は我が家にも新1年生(6歳)誕生です。カリキュラムも変わり、総合学習が導入されますが、学力は大丈夫か?生きる力とは?などと入学前から考えてしまうこのごろです。」
 今年の4月から「”生きる力“をはぐくむ」と銘打って、新学習指導要領が小中学校で実施されました。年間授業時間が大幅に縮減され、横断的・総合的と謳った「総合的な学習の時間」が創設されました。これから高等学校でも新指導要領が実施されます。総合学習に加えて、縮減した教育時間で育った高校生がいずれ大学にも入ってくるのですから、重大です。この影響は今後の問題ですが、すでに最近の大学生の学力が低下しているのではないかと、昨年まで勤務していた東北大学でもよく先生方の話題になっていました。
 私の専門は無機化学ですが、学生が研究実験を行い、その結果を検討してさらに先へ進むということを繰り返す毎日でした。ある実験結果が得られたとき、一般にそうなる理由はいくつも考えられます。最近、たくさんの可能な理由を挙げられる、あるいは挙げようとがんばる学生の数が減ってきているような気がします。しかしながら、学力や頭脳を駆使する能力の低下について、確たるデータを持ちあわせているわけではありません。


 最近のさまざまな教育論議の中で、たとえば「私が子供の時は、学校から帰るとかばんを放り出して暗くなるまで原っぱで遊んでばかりいました」という意見があります。確か、小泉首相も国会中継で似たようなことを述べておられましたが、その通りだったのでしょう。遊びも大切ですが、本当に遊んでばかりいた人達が、教育課程で学ぶべき知識を習得できたのでしょうか。ひょっとしたら、遊んだことだけを記憶しているのかもしれない、とも考えられるからです。これを検討するには、昔と今の子供たちがどの位遊び、どの位勉強したか、などを比較するデータに基づいて論じれば、もっと論点が明確になると思われます。とはいえ、教育に関しては、なぜかこうした具体的なデータを示さない議論、推論が多いような気がしてなりません。
 自然科学のみならず人文科学も社会科学も、広い意味の科学はすべて可能な限り実験、実証、あるいは検証というものを武器に発達してきました。それだけに、教育の改革・改善も、科学的手段・方法がもっと活用されるべきだと考えます。小中学生はもちろんのこと大学生や大学院生に至るまでの、多様で系統的なデータの収集により一層取り組むべきではないでしょうか。そうすれば、データに基づく提案にはずみがつくはずです。そうしないと、百年経っても「私が子供の時は・・・」と言って元のところをうろうろすることになります。


おぎの ひろし

1938年生まれ
現職:東北大学名誉教授
    放送大学教授
   (宮城学習センター所長)
専門:無機化学



I N F O R M A T I O N
オープンキャンパス
公開市民講座自然史講座
「スコラボタニカ」
日時:7月30日(火)31日(水)
会場:川内キャンパス
   (文学部・教育学部・法学部・経済学部)
   青葉山キャンパス(理学部・薬学部・工学部)
   星陵キャンパス(医学部・歯学部)
   雨宮キャンパス(農学部)
内容:学部の概要説明、公開講義、キャンパス探検等
問合せ先:東北大学学務部入試課入学試験第二掛
     掾@022−217−4861
     e-mail nyu-nyu2@bureau.tohoku.ac.jp
◎ 公開市民講座 
自然史講座「スコラボタニカ」
第4回 7月20日(海の日)
   「砂礫や泥底に住むサンゴたちの
    暮らしぶり」
    理学研究科 西平 守孝
第5回 8月31日(土)
   「植物の形を考える」
    石巻専修大学 根本 智行
第6回 9月29日(日)
   「秋の七草」
    尚絅女学院短期大学元教授 木 中外
    午前10時30分開演
●定員:各60名
●受講料:無料
(ただし、毎回入園料220円必要)
●会場・問合せ先:理学研究科附属植物園・
         公開市民講座係
(仙台市青葉区川内/tel022-217-6760)
http://www.biology.tohoku.ac.jp/garden/

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