前回「まなびの杜・秋号」では、男女共同参画社会とはいったいどんな社会なのかという話題をとりあげました。今回は、このような社会をどのように実現するのかを、法律や制度に沿って考えてみましょう。
 まず日本国憲法は、個人の尊重と幸福追求権(13条)、法の下の平等と性差別等の禁止(14条)、家庭における両性の平等と個人の尊厳(24条)等を定め、諸権利の男女平等を保障しています。これを受けて種々の法律が制定されているのですが、憲法違反が問題となる規定も少なからずあり、法整備が求められます。

男女共同参画社会を 実現するための法整備 ―家庭と職場で―

 家族法の領域では、例えば、民法733条は、女性のみに離婚後六か月間の再婚禁止を定めています。これは離婚後すぐに再婚すると生まれた子どもの嫡出推定が重複してしまうなどの理由によるものですが、妊娠していないことが明らかな場合(たとえば70歳代の女性が再婚を希望する場合など)でも半年待たなければならないというのはいかにも不合理です。また、夫婦同氏原則を定める750条も(婚姻時に夫又は妻の氏を選択する制度は形式的には不平等な規定ではないのですが)、必ず一方が改姓しなければ結婚できない点で問題があります。実際に妻の97%以上が夫の姓に改姓して社会活動上に不利益も生じているため、希望者が旧姓を維持できるような選択的別姓制の導入が求められているのです。これらの改訂を盛り込んだ民法改正案が1996年に作られて以来、改正の動向が注目されています。
 また、最近では、配偶者間暴力が社会問題化する中で、ドメスティック・バイオレンスを防止し被害者を保護するための法律(通称DV防止法) が制定され、2001年10月から施行されました。これはたとえ夫婦などの親密な間柄でも傷害罪などの犯罪が成立することを前提とするものです。もちろん私的領域に安易に警察等が介入することは好ましくないのですが、DV禁止は、女性の人権に対する自覚を高め、人権侵害をなくすための第一歩といえるでしょう。
 他方、職業生活と家庭生活とを両立させるために、育児休業・介護休業法があります。実際は、育児休業を男性が申し出る率が極めて低く、子が一歳未満に限られるなどの限界があったため2001年11月に法改正され、対象を3歳までに拡大し看護休暇制を導入するなどの子育て支援強化策がとられました。従来の性別役割分業を変えるためには、乳児の父親全員が有給育児休暇をとれる外国の制度なども参考になるでしょう。

積極的格差是正措置 (ポジティヴ・アクション)の課題


  職場では、 セクシュアル・ハラスメントや性差別があとを絶たず、女子大生の就職についての超氷河期という言葉もすっかり定着した感があります。これに対して、1999年に雇用機会均等法改正法が施行され、雇用差別の禁止が明確にされるとともに、男女の著しい格差を是正するために積極的措置をとる事業主を国が援助することが盛り込まれました。これが積極的格差是正措置です。欧米では、雇用や政治の場面で女性の参画率を高めるためにこの措置を試みています。例えばフランスでは、「パリテ法」によって選挙時の政党の立候補者名簿を男女交互にするなどの措置をとった結果、2001年3月の地方選挙で女性議員率が一挙に22%から48%にあがりました。  このような措置は、即効性がある反面、副作用も多いため、慎重な検討を必要とします。しかし、いずれにせよ、男女共同参画社会を実現するための法制度上の方策がいろいろあることは、心強い限りです。そしてそれらの方策の導入には、社会全体の十分なコンセンサスと意識変革が前提となるため、身近な問題から議論を積み上げることが望まれます。

 

 

つじむら みよこ

1949年生まれ
現職:東北大学
   大学院 法学   研究科教授
専門:憲法学、
   比較憲法学


東北大学 出版会だより
 8月23日から3日間大学出版協会の夏期研修会が仙台で開催され、各大学出版会から70名を越える方が参加し、当出版会も久道理事長が講演を行うなど、その存在を大きくアピールする機会となりました。
 さて今回は、新刊のうち3点と近刊の2点をご紹介致します。山口一良(財・石炭利用総合センター調査役)著『高炉を支えた操業技術と原燃料』(2,000円)は、技術革新を怠らず高度なハイテクを駆使する我が国の高炉技術の核心に迫ります。西田秀穂(東北大学名誉教授)著『パウル・クレーの芸術』(4,200円)は、クレーの画材と技法の変遷を克明にたどり、クレーの人間性を浮き彫りにしようとする意欲的な試みです。牛と日本人の関わりを文化史の観点から愛情豊かに論じたのが、津田恒之(東北大学名誉教授)著『牛と日本人』(2,300円)です。牛の姿を通して日本人の「心」が見えてくるでしょう。人の心に潜む「悪」を論じているのが、諸岡道比古(弘前大学教授)著『人間における悪』(予価4,300円)です。ドイツ観念論の二人の哲学者カントとシェリングの思想の展開に即して「悪」の問題に明晰な光を当てる本格的学術書です。越宏一(東京芸術大学教授)著『線描の芸術―西欧初期中世の写本を見る』(予価2,000円)は、初期中世写本の傑作《ユトレヒト詩編》を詳細に論じ、線描画こそ近・現代ヨーロッパ絵画の根幹をなす重要なファクターであることを明らかにします。待望の書と言えるでしょう。
 小会は科学研究費などの助成による出版にも積極的に取り組んでおり、出版物は仙台市内の各書店および東北大学川内文系店に常備されています。お急ぎの方は小会あて直接ご注文ください。ホームページからの注文も可能ですので、ぜひ一度ご覧ください。
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