国分 正一=文
text by Shoichi Kokubun
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宇宙船の中で飛行士達がふわふわと泳ぎまわっているのを、テレビが映し出します。水もシャボン玉のようにふわふわと浮いています。重力のない世界の不思議です。ところが、1ヶ月も2ヶ月も宇宙に長期滞在すると、骨がすけてしまいます。地上にいても、下腿の骨を折って手術をし、ベッドで安静にしていると、折れていない反対側の足の骨まですけてきます。そうです、骨に重力や体重がかからないと骨は弱くなってしまいます。 骨は毎日少しずつですが、新しい骨と置き換わっています。破骨(はこつ)細胞が虫食うようにして骨を吸収し、他方で骨芽(こつが)細胞が1列になって壁を塗るようにして骨を形成します。普通、その吸収と形成のバランスが保たれています。骨がすけるのはバランスがマイナスになった場合です。 骨の吸収と形成のバランスはホルモンやビタミンDの影響を強く受けています。しかし、運動も大事です。骨に力がかかると、それを骨の中にある骨細胞が感じ、その情報が伝わって骨芽細胞が盛んに骨を作ります。逆に骨に重力や体重がかからなければ、骨吸収と比べて骨形成が間に合わず、骨がすけてしまうのです。 骨は20歳前後にその人の人生でもっとも緻密になります。その時の骨の主成分であるリン酸カルシウムの量をピーク・ボーン・マスと呼んでいます。その後は、ゆっくりと骨の量が減って行き、特に女性は50歳を過ぎて、あるいは閉経を迎えると、多かれ少なかれ骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になっていきます。骨粗鬆症になるのを防ぐ、あるいは少しでも遅くするには、どうしたら良いでしょうか。毎日の散歩、ランニングなどの運動が大事です。それによって、骨の量の減少の度合いを弱めることができます。もう1つ、中学校から高校でのスポーツが大事です。どんどん骨が作られ、20歳前後のピーク・ボーン・マスが高くなります。 もちろん、栄養を無視しては骨は丈夫になりません。ただし、今の日本の食材豊かな食事では、偏らない限り問題がありません。ビタミンDも太陽光線を浴びれば、皮下でコレステロールから作られます。運動で骨に刺激を与え、骨芽細胞に丈夫な骨を作らせましょう。 |
「骨の吸収と形成のバランス」
コラーゲン線維の類骨(るいこつ)にリン酸カルシウムが付着して骨となる。
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こくぶん しょういち 1942 年生まれ 現 職:東北大学大学院 医学系研究科教授 専 門:整形外科 |