東北大学同窓生2博士、平成21年度文化勲章を同時受章
専攻 | お名前 | 東北大学経歴 | 受章業績 |
ウイルス学 | 日沼頼夫 博士 | 医学部卒 大学院終了 歯学部教授 |
成人T細胞白血病(ATL)の ウイルス病因の発見 |
材料科学 | 飯島澄男 博士 | 大学院物理学科 博士課程修了 東北大学科学計測 研究所助手 |
カーボンナノチューブの発見と 高分解能電子顕微鏡の開発 |
文化勲章とは、学術や芸術の分野の、日本における最高の栄誉です。平成21年度は、5氏が晴れて受章。学術関係3氏のうちの2氏、日沼頼夫博士と飯島澄男博士は東北大学の出身でした。
両博士の文化勲章受章に至る研究成果には、実は、人としての大いなるドラマがありました。
日沼頼夫博士は、東北大学医学部を卒業し大学院を修了。小児科医として働き始めますが、ある日、血液の癌(がん)「白血病」で入院中の子供に付き添う母親から、こう言われました。
《うちの子どもがいうんですよ。お母さん、僕はいつ死ぬの》
子供の癌に対し、当時の医学は無力に等しかったのです。
《子供を癌から解放したい、救いたい》
この決意から、日沼博士は、東北大学医学部細菌学教室に入局。ウイルスの基礎研究に向かいます。
米国留学中に、ヘルペスウイルスの一種であるEB(エプスタン・バール)ウイルス研究に優れた業績を挙げました。帰国後には、九州地域などに多かった成人T細胞白血病(ATL)の原因となるウイルスをついに発見。人間のがんが「レトロウイルス」によって起こることを、世界で初めて明らかにします。
レトロウイルスとは、RNA(リボ核酸)を遺伝子に持ち、感染した細胞の中の遺伝子に潜り込むものです。エイズのレトロウイルス(HIV)発見の3年も前の、まさに先駆的な研究でした。
日沼博士の研究成果により、感染経路が判明。人工栄養による母子間の母乳感染の遮断など、ATLの予防対策が一気に進むことになりました。
飯島澄男博士は、東北大学大学院物理学科博士課程を修了。東北大学科学計測研究所(現在は多元物質科学研究所に統合)の助手を経て、科学の基礎である、より精緻な「計測」のための電子顕微鏡の高分解能の開発に一貫して取り組みます。
《"電顕屋"としては誰にも負けない》
自らをこう語る飯島博士は、まさに自分自身が開発した高分解能電子顕微鏡の優れた力と執念により、夢の新素材と言われる「カーボンナノチューブ」を平成3年に発見。
炭素原子のシートが、円筒状になった構造であることをも解明しました。
「カーボンナノチューブ」とは、飯島博士自身の命名です。
クモの糸の1,000分の1の太さ。アルミニウムの約半分の軽さで鋼鉄の約20倍の強度。半導体にも金属にもなり、導電性も優れた微小な新開発の物質です。
無限の可能性を秘めた、ナノテクノロジーの中心となる新素材と世界の熱い期待を集めています。
両博士の研究成果は、学術史に特筆される卓越した業績です。
しかも、命を救う難病の予防や巨大な新産業の創出など、私たちの暮らしに直接に結びつく、幸せをもたらすものでもあります。
「実学の東北大学」らしい研究の、栄えある文化勲章の同時受章。東北大学の若き研究者のさらなる励みとなることでしょう。
両博士に続く才能たちが、21世紀へ貢献するいかなる研究ドラマを創り出してくれるのか。ますます楽しみな東北大学です。