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インタビュー

吉武 清實(よしたけ きよみ)教授
2008年冬発行号(第9号)掲載 東北大学高等教育開発推進センター  学生相談所 (昭和51年教育学研究科博士課程前期2年課程修了) 吉武 清實(よしたけ きよみ)教授

今こそ確かな人の繋がりがもつ大切さを

学生生活の支援

専門はコミュニティ心理学・臨床心理学でして、コミュニティアプローチによる臨床・実践研究をこれまで数多く行なってきました。 1999年から東北大学の学生相談所カウンセラーとして、全学の学生のカウンセリングをしています。また、東北大学高等教育開発推進センターにおいて学生生活支援の立場の教授として、大学として学生支援のためにどのようなことをすべきかということを考え、様々な調査を行いながら、学生支援の具体的な企画提案もおこなっております。近年では、学生相談所でセクシュアル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメントなどハラスメント被害への相談にもあたっています。

学生相談所の果たす役割

学生相談所には現在5人のスタッフがいます。東北大学には約18,000人の学生がいますので、単純に換算すれば、スタッフ一人につき3,600人の学生に応対しなければならない状況にあります。私自身としてはカウンセラーの人数は英国で推奨されている3,000人に一人が日本でも必要で、6人体制にと思っているのですが、他の大学との比較では恵まれている方です。東北大学はこの数年、学生支援・相談に関して力を入れて積極的に取り組んでいて、他の大学をリードする相談体制が作られつつあります。毎年、相談所には800人以上の来談者があり、約18,000人の学生数の4.5%ぐらいの利用率となっています。のべ相談回数は4,000回を越えています。私の場合は、1日朝から夕方まで7~8件の相談にあたっています。 相談に行くことはある敷居を越えることだと思っている学生がいますが、積極的に利用しようとして来る学生の割合も増えてきているといえます。

学生の変化

昔の東北大生と今の東北大生を比較してみて、これは東北大学に限らず全国的な傾向でもありますが、段階的に学生が変化してきたと感じています。昭和60年あたりから感じたことは、それまでは卒論なり何なり自分で決めてやっていきたいと思う気持ちを持つ人が比較的多かったのですが、何をやったらいいのかわからない人や受身的な人の増加です。やるにしても自分の力でやろうとしない人の割合が増えたようにも思います。

それから近年は、傷つきやすい学生さんたちも増えてきていますね。核家族化がどんどん進んで、社会的な関係を作るための基礎的な力が家庭でも、義務教育の小学校、中学校でも十分に養われていない学生の割合が増加しています。傷つきやすいという側面を持ち合わせた学生が増え、さらに最近はインターネットや携帯電話でのやりとりが進む社会になって、FACE TO FACEのコミュニケーションを避ける、あるいは明るく振舞いながらも率直に意見するということがない。傷つきやすいという点で、気をつけてあげなければいけない学生が3割はいるであろうと、九州大学の調査でわかっています。東北大学でも同様だと思います。

学生同士による関り合いの傾向

昔は、まず4月になると、高校の同窓の先輩が集まりを呼びかけたり、サークルや部員募集のような貼り紙が沢山ありました。東北大学の新しいキャンパスにきて大学生活を始めるとき、新しいことに慣れていくには先輩のルートで最初の入り口を作り、サポートを受けたり、先輩のあとをついていったり、授業や試験対策のアドバイスをもらうなど、学生生活を送る上でのガイダンスを提供する資源、非常に重要なソーシャルサポートがありました。

今はそれがほとんど無くなってきたように感じます。それから、ちょっと元気がなくなったり落ち込んだりした時に、サークルの人間関係の中でリカバリーしている場合が昔は多くあったのに、今はむしろそのサークルの人間関係の中で傷つき、抑うつ的な状態になってしまうことも。最近ではそうした、サークルや研究室の人間関係で傷つき、悩みをもつというような相談も増えています。深刻な例で言えば、サークルの人間関係に傷ついて1年間抑うつ状態が続き、体に症状が出る状況までになってしまうという学生もあります。不登校、引きこもりなどの状況になる例、さらには自殺を考えているような相談も、少ない割合ですが毎年あります。そのような学生たちはどこかで短絡的になっていたりするのですが、相談所に来てもらって一緒に過ごし、よく話を聞いてその気持ちをしっかりと受けとめていくなかで、自殺に向かう気持ちが消えていく例はたびたびです。一部には相談所から病院を紹介したりするより重い状態の学生もいます。東北大学の学生を対象とした隔年実施のアンケートでは、毎回、1パーセントが自殺を実際に実行しようと思ったことがあると回答するという結果が出ています。自殺を考えもした学生が研究室その他の人とのつながりの中で成熟して巣立っていく、それが大学生期というものです。その意味でも今、学生生活の危機的な時期に、教員や友達や先輩との人間関係が果たす役割、私たちの日々の活動である学生相談所や保健管理センターが果たす役割というのが非常に重要になってきています。

東北大学同窓生へのメッセージ

人と人との繋がりがとても大事なのに、繋がりを作るきっかけを持てなかったり、踏み出さないまま過ごしている学生が最近かなり多くみられます。そういう学生たちに何かの繋がりを持つような機会、そのひとつとして、ちょっと軽く背中を押してあげる感じで、現役の学生と同窓生の方々のネットワークが作られるようにしていくというような企画を増やしていければよいなと思います。大学は、卒業した学生が就職して社会で役割を担っていけるように教育することも目標のひとつとしているわけですが、学生支援の企画やキャリア支援の立場から考えると、社会に出た同窓生とのネットワーク作りも重要となるわけです。そのような企画の際に同窓生の皆さんにお知らせや呼びかけがいった折に、後輩のために一肌脱いでもらえるとしたら幸いです。たとえ具体的な行動を取れなくても、少しでも気にかけていていただければ、同窓生のそうした一人ひとりの方の思いがありがたく重要であると思います。

昨今はたいへん変化の激しい時代です。だからこそ人の繋がり・ネットワークが果たす役割は非常に大きいと言えます。非常に不確実なものが沢山ある時代に、確かな人の繋がりを作りにくくなっているからこそ、作ることが重要なのではないかなと思う次第です。





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