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インタビュー

勝股 康行(かつまた やすゆき)
第1回 2005年11月14日更新 七十七銀行相談役・経済学部 1955年卒 勝股 康行(かつまた やすゆき)

ニュートリノ研究人生

研究内容

私が現在行っている研究は、ニュートリノの実験的研究です。岐阜県の神岡鉱山の地下で東北大学が中心となりカムランドという実験を行っています。これはカミオカンデやスーパーカミオカンデに次ぐ第3世代のニュートリノ研究です。

私は東大にいた時の1980年頃からカミオカンデの実験の準備を始め、その後スーパーカミオカンデの開発研究、建設を行ってきました。

10数年やっておりますと、そろそろ違ったことをやりたいという思いが強くなりました。カミオカンデやスーパーカミオカンデは東大中心でやってきたので、新しい研究となるとそこから出て、他の場所で研究を行わなければなりません。12年前に東北大学でニュートリノの研究を行うグループを作るという話を受け、新しいニュートリノの研究を行なおうとプロジェクトを立て現在に至っております。カミオカンデやスーパーカミオカンデは水を使った巨大タンクのニュートリノの検出器です。我々は発光量が多い油を1000トン使いカミオカンデやスーパーカミオカンデで検出できないエネルギーの低いニュートリノを捕まえるところに特色があります。プロジェクトの提案から6年の歳月を経て、1000トン液体シンチレータ・ニュートリノ/反ニュートリノ検出器“カムランド”を完成させました。

では、カムランドで何を研究しているかといいますと、一つはニュートリノの質量の検出です。ニュートリノは3種類の存在が確認されていますが、その内の一つに質量を有していることが、初めてスーパーカミオカンデによって検出されました。そこで、他の種類のニュートリノ質量の検出を目指すことを主目的にしました。神岡鉱山の周りには柏崎や敦賀、大分浜、浜岡など原子力発電所が沢山あります。原子力発電所の原子炉で生成されるニュートリノを長距離隔てた神岡で検出して、質量の測定を試みました。その結果、2003年に検出に成功し、二つ目のニュートリノの質量の存在を確認しました。研究者の世界では、論文の被引用数が一つの成果の尺度になっています。この原子力発電所からのニュートリノ質量の検出論文は2003年、2004年と物理学分野で世界第1位の引用数をほこり、注目されています。

次の研究標的は、今年2005年の7月に発表した成果です。これは地球の内部で作られるニュートリノについての研究です。地球内部で作られる熱・エネルギーは、中心のコアの運動による地磁気の生成、マントルの運動・対流によるプレートの移動、それによる大陸の移動や地震、火山の誘発など、現在の地球の活動状況の根源です。また、現在、何故、地球内部にこれだけのエネルギー源があるのかという疑問は、地球誕生・進化の歴史と密接に関係します。

これらを解明するには、地球内部のエネルギー源やエネルギー量を直に測らなければなりません。しかしご存知のように、ボーリングを行っても深さ~10kmが限界です。これまでの地球内部構造は、主に地震波の解析、隕石の化学組成分析、岩石や金属の高温・高圧実験、地表調査等による間接的な情報を基にして構築されています。一方、地球内部の主要なエネルギー源である放射化熱の発生に伴って放出されるニュートリノを捕まえれば、地球内部の熱源状態が直接検出できることになります。この考えは50年も前から提案されていましたがカムランドの出現により、ようやく私達の研究で地球の内部からやってくるニュートリノを測ることに成功したのです。

小柴先生は超新星爆発に伴うニュートリノを捕まえて、ニュートリノ天文学という新しい研究分野を創始されました。私達は地球内部エネルギー生成に伴うニュートリノを捕まえて、ニュートリノ地球科学の道を開いたのです。今後はもっとエネルギーの低いニュートリノの検出を目指して、ニュートリノ物理学、ニュートリノ科学の研究を開拓したいと考えています。

最先端研究の現場

素粒子やニュートリノの実験装置の建設には5年以上の年月がかかります。5年間というと、大学院生は修士課程2年間と博士課程3年間を丸々、建設に費やすことになります。この間、物理の勉強は暇を見つけてやるくらいで実験装置作りに没頭しなければなりません。しかし、実験装置の建設は実験を志す学生にとって、非常に良い教育期間です。我々が作る実験装置は世界のどこにもない装置であり、毎日が試行錯誤の連続です。例えば、この道具を移動するという単純なことでも、移動の仕方で工夫を凝らします。効率よく的確に作業をいかにして行うか、毎日、頭を働かせます。土方作業、電気配線、コンピューターの組上げ等において、それ自身は小さなことですが、常に新たな挑戦をしているわけです。面白いことに、このような経験をした学生は、その後研究者として伸びる人が多いのです。物理の解析においても、いろんな問題に直面しても、平気で前進する力、行動が身についているわけです。

学生時代の思い出

1、2年生の学生の頃は早く専門に触れたいという気持ちが強く、相対論、量子論など数人で夜に集まって自主ゼミをやりました。授業とは別にやったことのほうが、どちらかというと今でも残っています。

私は実験研究を続けてきました。実験といえば実験装置を作るものだと考えますが、大学院生の時に配属になった研究室が加速器を用いる実験をしていて、しかも世界有数の加速器ができたばかりでした。このため、実験を行って得られたデータ解析が主体で、そこから物理結果を出さなければなりません。来る日も来る日もデータ解析と物理の勉強でした。実験研究を志したのですが実験装置を組立てるチャンスはほとんどありませんでした。ところが助手になり立ての頃、今度は実験装置の設計・開発などの仕事をやらなければならなくなりましたが、最初はなかなか上手くできませんでした。大学院生の時の5年間はほとんどこのようなことをやっていませんでしたから。しかし、ある時は解析ばかりで物理を一生懸命やり、実験装置になかなか手を出せなくても、解析と物理を一生懸命勉強していれば、その成果はいつか実ります。そして、次の機会には、実験ばかりで物理が勉強できない環境でも、実験を一生懸命やれば、そこで習得した実験技術はいつか生きます。あまり目先を利かせて「これをやると将来得をするとか、損をする」などを考えずに、その場、その場で与えられた条件・環境で最大限努力することが、将来実を結ぶのではないか考えています。本田光太郎先生の言葉である、「今が大切」とはまさにそうだと共感いたします。

学生時代の遊び

 学生の頃は遊び暮れたことはなく、どちらかと言うと勉強をしたほうです。しかし、誰もが手を出す麻雀やパチンコはよくやりました。パチンコは得意でした。パチンコ屋に行くと大学の先生に後ろから肩をたたかれたことがよくありました。

麻雀も結構やりました。自主セミナーと称して友達の下宿で輪講をするのですが、夜12時頃になると、セミナーを切り上げて麻雀が始まるわけです。ランダウという非常に有名な物理の先生の書いた「場の古典論」という教科書がありますが、私はそれをもじって「ハコテンの理論」という言葉作りました。





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