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インタビュー


メッセージ性の高い映像クリエイターの旗手

 児玉 裕一
児玉 裕一
2016リオ五輪閉会式で流された、次期開催地のPR映像「Warming up TOKYO」。スポーツ映像と、キャプテン翼などのキャラクターとのコラージュが、美しくドラマチックに展開。スーパーマリオが東京であせって走り、ドラえもんが用意した土管を抜けると、リオの閉会式会場の土管からマリオ姿の安倍晋三首相が登場。この落ちのついた映像のチーフディレクターを担ったのが児玉裕一さん。Perfume、東京事変、SMAPなどのミュージック・ビデオ作品はもとより、ソニー、NTT、資生堂などのCMを制作。カンヌ国際広告賞、クリオ賞、ワン・ショーの世界3大広告賞でグランプリを受賞した実力を誇る。誰も思いつかない方向から魅せる美しい映像は、止まることなく攻め続ける姿勢に磨かれ、ますます進化しているのだ。

面白いと馬鹿なことにトライした、学生時代。

子どもの頃から、科学技術を感じさせるものが好きでした。それで、大学受験の際に化学が好きだったし、理学部に入って化学を学ぶ道へ進んだわけです。科学者になろうと、大学1年生までは思っていたものです。

なぜ化学が好きだったのかと考えると、化学式や周期表の美しさ、サイエンスに関する図解のデザイン性に惹かれていたからだということにあとで気づきました。


いちばん記憶に残っている先生は、無機化学の長瀬賢三教授。先生の指導のもと、触媒反応の研究に取り組み、さまざまな状況下で反応、または可逆反応を起こしてエネルギーを得る。そんな研究をやっていました。

長瀬先生が話される化学のロマンティシズムに心酔した部分もあります。反応を解明して実用化へつなぎ、生活に役立たせて社会に貢献していくといったロマン。先生の研究姿勢や人生観にもふれることができたのは、大きな学びとなりました。


大学時代は、ホント馬鹿なことばっかりしていましたね(笑)。当時、キャンパスアート同好会に入ってましたが、やることは決まってない会なのです。壁にガムテープで人を貼り付けてみたり、道路の真ん中に食卓を置いた食事風景などと、変な写真にトライしたり。広瀬川の細くなっている所をせき止めたり、車のハンドルを右に切ってガムテープで固定して、ギアをドライブにいれて大きな円が描けるかとか . . . 。今思えばそんな危険な怪しいことをやって、あきれた集団でしたが、最高にエキサイティングな仲間たちでした。


もともと、『ゴーストバスターズ』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など、どちらかといえば大作SF系で、科学者が出てきたり、科学的な何かが加わっている映画が大好きでした。こういう所にもサイエンス好きの面が出てますね。

当時はたくさんの広告クリエイターやミュージック・ビデオ(以降、MV)作家が注目されていて、「広告批評」や「デザインの現場」といった雑誌で情報を仕入れ、次第に映像の道を模索し始めました。

それで大学2年の時、Macがあれば映像を作れるという噂を信じて、親に泣きついて購入。撮影は知人からビデオカメラを借りて行いました。


どうにか独学で映像ビデオを完成させるまでになり、友人の曲のMVや、ちょっとした娯楽番組を作ったりしてました。

学生たちがよく集まる家具屋さんの店長がCMディレクターをしていて、僕に「バイトしない?」と言ってくれました。それが、なぜか仙台の繁華街の駐車場のラジオCMソングを作る仕事だったのですが、そのCMソングは10年くらい使われて、仙台を離れた後も僕の声がこっそりラジオから流れてたのはちょっと嬉しかったです。



思いつく限り、できる限りを作品に込める。

広告を作りたい、CM制作をやりたいと、電通へ就職。制作部門に入ることはできず、新聞雑誌の広告枠を扱う媒体部へ。広告のしくみを現場で経験しながら覚えました。

映像制作をしたいものの、周りの先輩が優しく可愛がってくれて、これ以上居たらやめられなくなると1年で退社。仙台へ戻りました。2000年頃でしたね。

仙台では、当初、ローカル局の若者向けテレビ番組の制作に携わりました。このタイミングで地上波の仕事を経験できたのはラッキーでした。企画から撮影、編集、テロップまで、一人でやって当たり前という過酷な現場でしたが、視聴者からのレスポンスがあると、もの凄くうれしかったです。


その後再び上京し、ディレクターとしてMVやCMを制作。フリーだったり、マネージメント会社に所属したりしたりしたのち、現在の個人事務所、vivisionを立ち上げました。


仕事としては、クライアントや要請されるテーマやターゲット層などそれぞれ違うので、その都度いろいろ考えて、その時できることを精一杯やろうと思っています。

2008年にユニクロのPV「UNICLOCK」で、思いがけなく世界三大広告賞を手にすることができました。あの作品は、インターネットの環境がやっと整った時期のもので、リッチな映像表現がWEB上で可能になった初期段階のものです。やはり未開拓のフィールドは新しい体験を提供できますし、アイデアの出しがいがあります。新しいフィールドにクオリティーの高いものを持って行ったときの強さを実感しました。


▲UNIQLO / UNIQLOCK

2016リオ五輪閉会式でのフラッグハンドオーバー用の演出は、じっくり時間をかけ半年位かかりました。日本のカルチャーをアピールするにも、8分間では時間も短い。様々な議論の末、たどり着いたのがスーパーマリオ。動きもスポーティーだし、なによりもユーモアたっぷりになりそうだと思ったのが、最初の突破口になりました。方向性さえ決まれば後は作業を分担して、撮影・編集すればいいので、実作業は2か月程度。いずれにしろ、さまざまな条件下、ベストを尽くしたつもりです。


グラフィカルな映像が好きなので、グラフィックと映像の組み合わせをよく練ります。実写にCGやアニメーションなどの技術を違和感なく融合させて、リアルな映像体験と想像するイメージの絡み合いが無限にできるのが、面白いですよね。

どこか、今まで自分が見たことないこととか、ワクワクできるものを出発点に考える。それを想像して制作した映像がクライアントが望んでいるものとすり合わさると、より楽しくなったりします。


とにかく、仕事は常にただ一度きりのつもりで、制作意図にふさわしいアイデアを出し切りたいと思っています。何を伝えるべきか、どうしたら印象に残る作品になるか、時間の許す限り悩みます。受け手側がいいな、心地よいなと感じてもらうことがゴール地点ですから、そこから逆算して空気感をはじめ考えていく。

できれば、まだ誰もやってないこと、新しいものを僕自身が見てみたいのです。それで、AとBを足して、全然違うXを作る。そんな映像の化学反応を起こす実験をしながら仕事をしている感じです。


トライしたすべては生きていく財産になる。

いろいろなことにふれるというのが大事です。僕は、東北大学で化学を学んだり、学んでいる人たちを目の当たりにしたことは、素晴らしい経験になっています。キャンパスアート同好会での馬鹿な活動も、いつもワクワクしながら「ものをつくる」感覚、どうせなら人が思いつかないエンタテイメント性を求める意識など、今の僕のベースに繋がっているものです。


長瀬先生の化学へのロマンティシズムは、時々思いだします。学んだり、研究した領域だけで考えるのではなく、研究していたことが生活に、社会に活きていないか、考えるという生き方も教えてもらえたわけです。それは、自分の大きな財産になっています。それから広告代理店での経験は、どれもこれもいまの仕事に直結しています。


▲HONDA / Go Vantage Point

とにかくいろいろやってみて、違うなと思ったら方向を変えればいい。焦らず、今やっていることと自分を照らし合わせてみる。そうして、次の進路、次の行動を考えてみる。そういう時間があれば、納得しながら仕事もできるし生きてもいけるのではないでしょうか。


東北大学に望むことは、どんどん優秀な人を輩出して、僕たち卒業生が母校を自慢できるようにしてほしいです。大学ランキングでは、理系分野で国内ナンバーワンをめざしてほしいし、世界ランキングも上げてほしいと期待しています(笑)。




映像ディレクター。1975年生まれ。東北大学理学部化学系卒業。卒業後、広告代理店勤務を経て独立。以後フリーのディレクターとしてCM、MVなどの演出を手がける。2006年より「CAVIAR」に所属。2013年9月「vivision」 設立。

【受賞歴】サントリー歌のリレー「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」/東京ADC 2011 ADCグランプリ第49回 ギャラクシー賞 CM部門大賞、"Tabio Slide Show" タビオ/カンヌ国際広告祭 Bronze・Ad Fest Silver・Tokyo Interactive Ad Awards Bronze・第14回文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門優秀賞、"UNIQLOCK" UNIQLO/カンヌ国際賞・クリオ賞・ワンショーの世界三大広告賞グランプリ受賞、"The Beyond" SONY PLAYSTATION3/New York Festivals Bronze、Space Shower Music Video Awards BEST DIRECTOR 2008・2009・2010 など




東北大学総務企画部広報課校友係
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