シリーズ◎感染症3 │院内感染│賀来 満夫

院内感染とは

 感染症は原因となる微生物(病原体ともいう)が私たちの体の中に侵入・増殖し、発熱・寒気・倦怠感などの全身症状や、咳や呼吸困難などの呼吸器症状、あるいは下痢などの消化器症状など、さまざまな症状を起こしてくる病気です。最近、新聞やテレビなどで、院内感染のことがしばしば報道されていますが、「院内感染」とは医療施設に入院している患者さんに起こってくる感染症のことを意味しています。

院内感染はなぜ起こるのか

 微生物が侵入すればいつでも感染症を起こすのかというと、そうではありません。私たちの体には微生物の侵入や増殖を防ぐ免疫があり、普通はこの免疫が感染症の発症を防いでいます。しかし、入院患者さんの場合は、さまざまな病気にかかっておられることから健康な人に比べ体力が低下しています。これに加えて、外科手術や抗がん剤・放射線治療を受けることにより免疫力が低下する場合も多く、さらに、薬剤や水分・栄養の補給、さらに体液(尿など)の排泄を補助するためのカテーテルなどを使用する機会も多いのです。そのため、入院していない健康な人に比べ、入院患者さんは容易に感染を受けやすい(感染にかかりやすい)状態:易感染状態となっており、感染予防が十分に行われていない場合には院内感染が起こってくることになるわけです。

院内感染を防ぐために

 院内感染を防ぐために、今、病院ではいろいろな取り組みが行われています。多くの病院では、感染症や感染対策が専門の医師や看護師、薬剤師、検査技師などから組織された感染症対策チームが病院内をまわり、患者さんに院内感染が起こっていないかを調べたり、手洗いなどがきちんと行われているか、清潔な医療操作が行われているかなどを細かくチェックし、院内感染の予防に努めています。また、病院内で医療スタッフの感染予防の意識を高めていくための勉強会などが開催され、毎回、多くの医療スタッフが参加し、手洗いの講習などを行い、スタッフ全員で感染予防に取り組んでいこうと努力しています。特に東北大学では東北地域の医療施設に専門家を派遣し、感染対策を支援しており、日本のモデルとして高く評価されています。

感染症は社会全体の危機

 「感染症」は原因となる微生物が伝播(うつる)ために、ヒトを超え、施設を超え、地域全体に広がる可能性があります。このため、感染症の問題は世界的にも大問題となっており、どのように感染症を防いでいくのか、効果的な予防法や治療法についての研究が最重要課題となっています。すなわち、院内感染を含め、今や感染症の問題は病院などの医療施設だけではなく、学校やいろいろな会社など、まさに社会全体に大きな影響を与える「危機:クライシス」なのです。

専門の感染対策チームが病院内をまわっている風景

ネットワーク・連携協力が“鍵”

 感染症に立ち向かうためには、ネットワーク、そして連携・協力が「鍵」となります。感染症に対する過度な恐れや不安を避けるためにも、どうすれば感染症を予防できるのか、についての正しい情報を共有化していくことが必要です。そのためにも、感染症の専門家や医療スタッフ、患者さんや家族、一般の国民の方々、メディア、行政、などすべての人々がネットワークを構築し、相互理解を深め、正しい情報を共有し連携協力して感染予防に努めていくことが今求められているのです。

賀来満夫(かく みつお)

賀来満夫(かく みつお)
1953年生まれ
現職/東北大学大学院医学系研究科教授
   (感染制御・検査診断学)
専門/感染症学、感染制御学、臨床微生物学
研究室ホームページ/
http://www.tohoku-icnet.ac/

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