大学教育の潮流 リサーチマインドを育む教育体制の構築 金塚 完

 東北大学医学部医学科では、質の高い医師の育成をめざして“リサーチマインド(探究の志)を育む教育体制の構築”に取り組んでいます。このプログラムは、学生が早期から医療のさまざまな分野・現場を知り、これに憧れて学び、自ら問題を解決できる実践的能力を身につけ、将来は指導的医療人として活躍する人材に育つことを目標としています。
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 WHO報告に見る日本の総合的な医療レベルは世界のトップです。しかし、日本の人口当たり医師数は国際水準よりずっと少なく、医師の献身的努力が日本の医療レベルを支えてきた一因であることは間違いありません。一方、昨今の医療崩壊の報道を見ると、これも限界かと危惧されます。もう一つ医療の大きな問題に医学研究者の減少があります。
 医療を支えるには質の高い臨床医と未来の医学を開拓する研究者の育成が必須です。いずれも医療人としての自覚・目的意識・責任感と、自ら問題を見出し・考え・解決できる能力を備えた人材であることが大切です。このプログラムはこれらを見据えて入学初年度から実施されます。
導入教育
 臨床医学修練1次と動機付け学習の構成で、1学年後期に実施されます。前者では、患者さんや御家族の思いを知る患者遺族との対話、コミュニケーション能力を高める演習、医療安全や守秘義務、基本的な医療技術に関する実践教育、実際の医療現場を知る体験実習などが行われます。
 続く動機付け学習では、医学研究、国際医療、地域医療・家庭医療など種々の医療現場から第一人者が招かれ、講演と討論が毎週開催されます。また、医療問題に関するグループ学習が企画され、これらを通して学生は医学を学ぶ目的意識・動機、倫理感を高め、医療人としての責任感を習得してゆきます。
発展教育
 2学年を対象に、グループ学習 Advanced Science Course(ASC) と Workshop for Tackling Question(WTQ) が実施されます。学生は事前に提示される課題から興味あるテーマを選んで参加し、ASCでは選んだテーマをその時の知識で解釈・理解し、問題点を抽出します。WTQでは抽出した問題の意義、理解に必要な知識や解決手段、各自のアイデアなどを出し合い、問題の解決に向けて資料の収集とデータ整理を行い、まとめた結果を発表します。
 学生はこのプログラムでさまざまな問題への興味を高めつつ、テーマの分析や問題を抽出する能力、問題を解決する柔軟な思考能力を獲得してゆきます。
実践教育
 3学年後期に実施され、学生は実際の研究活動に参加します。まず、準備段階の基礎医学チュートリアルで、提示された大まかなテーマをグループで討議し、最終的なテーマに絞り込むなどの研究の基本的な考え方を学びます。続く基礎医学修練では、各自が選択した基礎・社会医学の分野に所属し、4ヶ月間実験やフィールド活動などを実践し、その過程で問題の解決に必要な知識・能力を獲得し、実践的な研究能力を学びます。
 研究成果は学生主体で実施する模擬学会で発表され、これを学生同士が評価し、高い評価を得た学生には海外を含めた先端的研究機関の見学、国際学会への参加などの機会が与えられます。
 私たちは、このプログラムを通して、将来の医学を支え開拓して行ける指導的な人材が巣立っていくことを期待しています。
金塚 完(かなつか ひろし) 金塚 完(かなつか ひろし)
1950年生まれ
現職/東北大学大学院医学系研究科
   附属医学教育推進センター 教授
専門/医学教育、循環器内科学、冠循環生理学
関連ホームページ/http://www.gakubu-gp.med.tohoku.ac.jp/


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