シリーズ”住環境を考える 2
都市居住をめぐる課題
石坂 公一=文
text by Koichi Ishizaka

人間だけでなく建物も高齢化

 今後、日本では人口構造の一層の高齢化を伴いながら人口・世帯数の減少が進展していくことになります。これに伴い都市、地域では、空き家、空き地の増加や介護需要の増大、既存都市施設の1人当たりの維持管理コストの増大などの種々の問題が発生することが予想され、都市計画や居住計画の分野では対応策として「コンパクトシティ」「空き家バンクシステム」「郊外市街地のスマートシュリンク(上手に縮退していく)」などのさまざまな構想が検討されつつあります。
 高齢化は人間に特有なものではありません。建物も街も年をとります。これまでは住宅の形式は一戸建が主流でしたので、老朽化した住宅の取り壊しや建替によって住宅ストックの更新は比較的スムーズに行われてきました。ただ、これからはやや事情が異なります。都市型住宅の形式として一般的となった「マンション(区分所有集合住宅)」が順次、高齢化(物理的に)してくるからです。

マンション高齢化に伴う課題

 マンションが一戸建と大きく異なるのはその権利形態です。一戸建の所有者は通常は一人の個人であって、取り壊しや建替の意志決定は一人の判断でできます。これに対してマンションの躯体は所有者全員の「共有」であり、取り壊しや建替などの重要な判断を行うには多くの居住者間で合意が形成される必要があります。同じマンションの居住者であってもそれぞれが抱える事情はさまざまであり、この合意形成には困難が伴うことは容易に想像できます。合意形成が困難なマンションは取り壊しも建替もできず、さらに極端な場合には居住に必要な機能を確保するための修繕もできないという事態も起こりかねません。特に最近、都市部に供給されている超高層タワー型のマンションでは戸数が多い分だけ困難さも大きくなると予想されます。
 下の図は、仙台市について国勢調査データより推計した2005年時点の年齢別、居住している住宅型別の人口および2000〜2005年の間にコーホート(出生時期が同一の集団)別の変化を示したものです。中年以降の年齢層でも一戸建・長屋建に居住している人口が減少しているのに対し、共同建持家(マンションと考えて良い)の居住人口は増加していることがわかります。
 通常、建物としてのマンションの高齢化と居住者の高齢化は同時に進行しますので、早め早めの対策が必要なのですが、まだ問題が深刻になっていないマンションが多いこともあって人々の関心はそれほどではないように思われます。人間だれしも若いうちは自分が老いた時のことには考えが及ばない(より正確には考えたくない)のですが、それは必ずやってくることなので早めに考え始めた方が得策です。

人口減少も視野に入れた対応策の要請

 これからはマンションの問題以外にも冒頭に述べたような事態に対処していかなければなりません。現在の都市計画、居住計画のシステムは、人口増加と市街地の拡大の制御を目的としているものが多く、人口減少に起因する問題への対応という点では甚だ心もとない状況にあります。
 街の荒廃化や介護崩壊といった深刻な社会問題の発生をできるだけ抑制しつつあらたな状態に「ソフトランディング」させていくための智恵、効果的な計画・制御システムの開発とそのための研究が必要とされていると言えるでしょう。



いしざか こういち

いしざか こういち
1949年生まれ
東北大学大学院工学研究科 教授
専門:居住計画、都市計画

http://www.archi.tohoku.ac.jp/labs-pages/u_man/enter.htm



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