クローズアップ 地域と大学

光通信、地震・津波の防災に
役立てるために

中沢 正隆=文
text by Masataka Nakazawa

「周波数安定化ファイバレーザ」の研究開発
 私が東北大学の電気通信研究所に赴任しましたのは今から八年前の2001年ですが、その前に客員教授を2年間しておりましたので、仙台に来て11年目になります。それまでは企業の研究所で光通信の研究を20年以上続けていました。
 仙台に来て新たな研究活動に入ったわけですが、仙台での研究はある人との再会から始まります。その方は昔、光の測定装置開発でご一緒した方ですが、その時たまたま仙台市内の民間研究所におられ、どこで聞かれたかある日私を訪ねて来られました。仙台での研究展望を話しますと、その方も同じ方面の研究に興味があるとのこと。それでは一緒に研究開発プログラムに応募しましょう、ということになりました。
 それから5年、知的クラスター創成事業というプログラムの一つとして「周波数安定化ファイバレーザ」という光源の研究開発を行いました。レーザとは、携帯電話の約一万倍以上の高い周波数の電磁波、すなわち光を出す発振器でありますが、その波を非常に規則的に出すように安定化した装置を作ることに専念いたしました。地道な研究ですが、それがうまくいけば、誰も踏み込んだことのない新たな光通信技術が提案でき、10年後の光通信の研究は世界中が私たちの方を向くと思っていました。

仙台を光通信のメッカに
 今、光通信の分野で一番注目されているのが、光を無線のように使いこなす技術であり、私たちは欧米も含めて最も革新的な研究をしているグループとして評価されるようになりました。これは先程お話しした周波数安定化レーザをもとにして、今までより10倍も周波数利用効率の高い光通信技術を実現したことが評価されたものです。その方向の道がそこにあったからそれに乗ったのではなく、新たな道を作り上げることに成功したのです。まだ始まったばかりの研究ですが、一度火がついた研究分野は世界中の研究者が取り組みますので、予想できないスピードで研究競争が始まっています。仙台が光通信のメッカとして、世界中の研究者から「是非東北大学で光通信の研究をしてみたい」と言われるようになりたいものです。
 もう一つ感じていることをお話ししたいと思います。それは人と人のつながりであり、大学における研究の広がりです。企業では利潤の追求が先頭に立ちますから、簡単には新たなことに手が出せません。しかし、大学ではさまざまな分野の研究者とニュートラルな立場で気軽に議論できますので、とんでもないユニークな発想や融合が起こり、ひいては技術革新に繋がっていくのではないかと思っています。

超高速光伝送の実験風景(中沢研究室)

 

計測機能を防災へ応用
 実は、私たちが開発してきた周波数安定化レーザは光通信ばかりでなく、高精度な歪み計測や重力の測定にも使えることがわかってきました。そこで新たなる分野への挑戦として、「光を用いた地震等の計測とそのネットワーキングに関する研究会」を3年前に立ち上げ、さまざまな機関と共同研究を行っています。例えば、東京大学の地震研究所と協力して、重力加速度の小型測定器を開発しています。私たちの光源を使いますと異なった場所におけるほんの僅かな重力の違いが感知できます。例えば、火山の下にマグマがある場合とない場合では、重力に差が出来るため、それをもとに火山の情報を得ることができます。
 仙台は地震が気になる土地柄ですから、私たちの光の地震計や津波計に関する研究がやがて仙台の防災・地震の予知などに繋がっていければと思っています。

なかざわ まさたか

なかざわ まさたか
1952年生まれ
東北大学電気通信研究所 教授(Distinguished Professor)
専門:光ファイバ通信工学、レーザ科学

http://www.riec.tohoku.ac.jp/lab/nakazawa/index-j.html

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