特集プラスチックのリサイクル

吉岡 敏明=文
text by Toshiaki Yoshioka
廃プラスチックの発生とリサイクルの分類

 「プラスチックってかさばるなあ」と感じている人は少なくないでしょう。では、一年間でどのくらい生産され、使用済みとなり、そしてリサイクルされているのでしょうか。そして、プラスチックとはどういうものなのでしょうか。
 プラスチックにはいろいろなものがあります。基本的には、炭素や水素の結合したもので、用途に応じて酸素や塩素などがさらに結合したり、また、結合の仕方も様々で、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレンテレフタレート(PET)などがあります。
 ここ数年、プラスチックの生産量は約1,500万トンで、排出量も約1,000万トンと横ばい傾向ですが、この数字は毎年約500万トンが蓄積されていくことを意味しています。図に2007年の廃プラスチックの流れを示します。
 回収された廃プラスチックは、マテリアル(材料)リサイクル、ケミカル(化学)リサイクルおよびサーマルリサイクル(エネルギー回収)と、再生品の性状やどのような使われ方をするかによって3つの分類でリサイクルされます。
 このような分類は、対象とする原料や物質がどのようなリサイクルプロセスを経ようとも、最後までその原料や物質として回収される金属材料とは異なります。つまり、金属類は煮て食べようが、焼いて食べようが、金は金、鉄は鉄であるので「リサイクル」という言葉で一つにくくることができます。しかし、プラスチックは炭素と水素を主とした様々なタイプの化学結合によって構成されているので、化学的および熱的な反応によって全く別の原料や物質に変わることが大きな理由です。また、その特性がプラスチックのリサイクルをより困難なものにしています。さらに、プラスチックは比重が金属に比べてはるかに小さいため、発生した場所からリサイクルする場所まで運ぶコストや回収したものを保管するコストが大きな課題となっています。

廃プラスチックリサイクルの技術
 マテリアルリサイクルでは、プラスチックを分解しない温度領域で溶融して再生加工する手法が一般的でありますが、多少の不純物が混入してもある程度は対応できます。しかし、繊維やフィル(充填材)への加工では、少しでも不純物が混入することは、加工性や再生品の品質を著しく落とすことが問題となり、近年では、溶媒に対象プラスチックや、あるいは不純物を溶解させて、分離しながら品質を確保する手法がとられています。
 サーマルリサイクルは、エネルギー回収という位置づけですが、むしろ、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルでは対応が困難なプラスチック類を減容化・処理する際に、少しでもエネルギーを有効利用するためにとられています。
 ケミカルリサイクルは、高分子をその構成分子に戻すこと(モノマー化)を意味していましたが、近年では、油化やガス化も化学原料に転換するという意味でケミカルリサイクルに位置づけられるようになっています。
 この他、鉄鋼業において鉄をつくる際に必要となる石炭やコークスの代わりとして利用すること(高炉還元剤やコークス炉ガス化)もケミカルリサイクルの分類に入ります。
 しかし、プラスチックはプラスチックのみが回収されるわけではなく、金属などと複合して製品として出回っていますので、プラスチックだけを分離することは非常に困難であります。私たちは、プラスチックを化学原料に転換すると同時に、金属類も同時に回収する技術開発とプロセス構築に取組んでいます。皆さんがよく目にするPETボトルがあります。しかし、PETはボトル以外にも金属と複合してフィルム、シートやテープなど様々な分野で使われています。これから金属を回収するには焼却処理が施されますが、PETは昇華性の有機酸を生成するため、設備の閉塞や腐食によって簡単には対応できません。私たちは、この問題を解決するために、酸素が存在しない条件で、300から900℃の温度で消石灰(水酸化カルシウム)や生石灰(酸化カルシウム)を触媒として熱分解すると化学原料として重要なベンゼンなどの油に転換できる方法を見出しました。ベンゼンは、スチレンやフェノールのような重要な化合物を製造するために使われる有用な原料です。この方法を応用すると、プラスチックを石油に転換し、残った金属類はそのまま精錬という工程で回収することが可能となります。
 例として、X線フィルムからのベンゼン転換と銀回収の工程を図に示します。酸化カルシウム(CaO)は触媒として働くので何度でも循環利用が可能です。現在、処理能力50トン/年のプラントを稼動させながら試験研究を行っています。


 
熱分解プロセスの最適化、効率化へ
 私たちの研究室では、この他にも様々なタイプの反応器を用いて、プラスチックの熱分解を研究しています。小規模のものとしては固定床反応器、大規模のものとしては連続稼動式流動床反応器があります。どちらの反応器でもプラスチック熱分解の反応時間はとても短く、数秒から1分程度です。
 経済的に有用なプラスチックの熱分解プロセスを開発するためには、目的の化学原料を高収率で得ることが不可欠です。私たちは、熱分解プロセスの最適化を図り、プロセスの効率を上げることを目指して研究に取り組んでいます。
 私たちは、プラスチックのリサイクルに関する技術開発を通して新しい資源循環型の社会形成と環境産業を創生することを目指して努力しています。



吉岡 敏明 よしおか としあき
1963年生まれ
東北大学大学院環境科学研究科 教授
専門:リサイクル化学、環境工学
http://www.che.tohoku.ac.jp/~env/index.html


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