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マルサスとリカードの主張
食料生産が人口問題や経済発展とどのような関係にあるかについては、19世紀初めの経済学者であるマルサスとリカードの主張が有名です。 マルサスは、食料生産が等差数列的にしか増大しないのに人口は放っておけば等比数列的に増加する。人口は食料生産力に左右されるので、人口が増えすぎれば困窮、疾病、飢饉、戦争などがもたらされる、と説いたのです。一方、リカードは、経済発展が進むと食料需要が増加し、痩せた農地での耕作を拡大させて食料価格の高騰を招く。すると、賃金上昇、企業利潤率の低下が起こり、経済発展ができなくなると説いたのでした。 幸いにも、この両者の主張は先進国でははずれました。品種改良や化学肥料・農薬の多投などで食料生産が等比数列的に増大し、生活水準の向上で出生率も低下したからです。 しかし、途上国では、経済発展を待たずに保健・医療が進んだことから、以前に比べて死亡率が低下し、人口爆発が生じました。幸いアジアでは、1960年代後半以降の「緑の革命」(高収量品種の開発、化学肥料の増投などによる米・小麦の面積当たり収穫量の増加)によってこの問題を克服し、経済発展に成功しましたが、インド、アフリア諸国などの人口増加は、甘い見方でも21世紀後半にならないと頭打ちしません。そこで、途上国の人口増加と所得水準の上昇が生じた場合に、穀物(特に飼料穀物)の需要増に世界が応えられるかどうかが問われています。これには楽観説と悲観説がありますが、最近では新興国の食料需要増やバイオ燃料需要の拡大で、悲観説の材料が増えている感があります。そうした中で気になるのは、アフリカだけが「緑の革命」の恩恵から取り残されていることです。 アフリカの食料問題 サハラ以南アフリカでは、1961年から2003年にかけて食料生産が年率2.4%で増大しましたが、人口増加は年率2.8%とこれを上回りました。その結果、一人当たりの食料生産は低迷し、図のように「緑の革命」を達成したアジアからは大きく引き離されてしまいました。アフリカでは出生率の劇的な低下もまだ起こっていません。 「緑の革命」がアフリカで実現していないのは、主食の雑穀・豆類・イモ類での高収量品種の未開発、灌漑整備の後れ、安価な肥料・農薬の供給体制の未整備、養分供給効率の悪い土壌などのためです。 先進国における新たな食料・農業問題 一方、先進国では技術進歩と農業保護で、これまで食料は生産過剰の状態で推移してきました。食料自給率の低い日本にとってはともかく、米国やEUにとってはこれは問題でした。このほか食料の過剰摂取も問題でしたが、新たな問題も生じています。それは狂牛病、残留農薬、遺伝子組み換え作物、景観・野生生物生息地の破壊、水質汚染など、効率追求がもたらした食の不安や農業における環境破壊です。環境保全型農業への転換、トレーサビリティ(流通経路情報把握)の導入などが盛んになっている所以です。 なお、最近の食料価格高騰からうかがわれるように、バイオ燃料需要や新興国の食料需要の拡大で、今後は先進国でも食料価格が高止まりするのではないかとの懸念が強まっています。食料価格高騰の深刻な影響は既に途上国で現れており、先進国のバイオ燃料政策の見直しを求める声も高まっています。 問題解決のための民主主義への期待 EUには、農業の環境対策のほか、地球温暖化への取り組み、アフリカ支援などで積極的な国が多数存在します。そこには予防原則の考え方や公平な社会を目指す姿勢があり、背景に民主主義の成熟が感じられます。人類の課題である持続的発展にとって、技術や経済政策はもちろんですが、民主主義の成熟も大きな力になってくれるのではないでしょうか。 |