「歯と健康」
微笑みをあなたに、
そしてあなたから
最近、デンタル・エステという言葉が流行っており、歯をはじめとする口腔領域(口の内外)の歯科美学(歯科審美学)は、日本でも大きな関心がもたれ始めています。
歯科医療の目的は本来、歯や歯を支える組織の病気を予防するとともに、冒された形態を回復することにより、健全な咬合(歯の咬み合わせ)、咀しゃくや発音などの諸機能を回復し維持することに加えて、審美性の回復があげられていました。
この審美性が歯科医療の中で一つの学問的・医療的体系として取り上げられるようになったのは、そんなに昔のことではありません。なぜ今になって脚光を浴びるようになったのでしょうか?
それは、技術・材料の画期的な進歩と口腔の美に対する患者さんの意識の高まり、つまり時代的な背景が大きいと思います。しかし、残念なことに日本の場合その意識はまだまだ低く、一般の要求から芽生えたというより欧米からの影響が大きいと言えます。欧米では「口腔の美」に対する認識は、自己改造(self improvement)の手段の一つとして、最近では「歩行」、「禁煙」、「禁酒」と並んで取り上げられています。その背景には、自らの口腔を美しく保つということは、自分にとって精神的な意味があると同時に、相手に不快感を与えないという発想、つまり他人に対する思いやりやエチケットという面が大きいといえます。
審美が医療の一端を担っているかぎり、健康が基本であることは言うまでもありません。
健康美(バイオエステティックス)とは、人間が生まれながらに備えているべき形態的な美だけの追求ではなく、機能的な美を含めた総合的な健康美の追求であると言えます。したがって、既存の専門領域だけでなくいくつかの異なる分野にわたる学際的な対応が当然必要となります。
自分の口腔の美に不満のある人は、無意識の内に口元に手をかざして話をしたり、口元が緊張してしまいます(治療前写真)。適切な回復がなされると笑顔も戻ります(治療後写真)。
よく日本人は無表情だとか、消極的だとか、自己表現がへただとか言われますが、自分の口腔の美に対する自信のなさが、その原因の一つになっていることがあります。海外で活躍する機会も多い現在、我々日本人も無関心ではいられないと思います。口をはっきり開け、自分の意志を明確に相手に伝えましょう。そして、笑顔も忘れずに。
↑ 治療前写真
緊張したぎこちない感じの口元。
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↑ 治療後写真
自然な笑顔は口元から。
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木村 幸平(きむら こうへい)
1947年5月生まれ
東北大学歯学部 教授
専門:歯科補綴学、
冠・橋義歯学、
歯科審美(歯科美)学