樅の木は残った



 これは山本周五郎の時代小説の題名で,伊達騒動の中心人物である原田甲斐が江戸の寺に仙台から移植したモミに、伊達家の命脈を託して象徴的に表現したものと言えましょう。
 モミは日本にのみ自生する常緑針葉樹で、古くから伐採されて平野部ではその林はほとんどなく、当植物園が全国唯一と言える程です。それで国指定天然記念物となっています。小説では原田甲斐に「樅の木は北国の風雪に強い木で,江戸では暖かすぎて良く育たない」と言わせてますが,実は仙台付近がモミの北限地で、もっと暖かい地方に多く生え、むしろ青葉山でこそ寒さに耐えて生き延びているのです。
 植物園で一番大きなモミの木は直径144cm、樹高30mで、樹齢は約300年と推定されています。夏に鬱蒼としていた植物園が、秋ともなると色づきはじめ、深まる秋とともに落葉して林は明るくなります。モミの濃い緑が紅葉した木々とコントラストをなして、一層あでやかに引き立ちます。

(理学部附属植物園長 鈴木三男)