高度化する医療と情報セキュリティ
根東 義明=文
text by Yoshiaki Kondo

高度化する医療と情報

 病院などの医療機関にかかると、まず診察室で目に入ってくるのは医師が書くカルテでしょう。カルテは、私たちの病気の状態やこれまでの経過を詳細に記載した書類であり、その内容がしっかりしていることが、きちんとした医療を受けるための第一歩ということになると思います。
 特に、昔と比べてより沢山の検査が開発され、より沢山の治療方法の選択が可能となってきた現在、適切な診断・治療によって私たちが病気と闘っていくために、カルテの重要性が高まることはあっても、低まることはないと言えるでしょう。

電子カルテの出現

 現在、このカルテのあり方をめぐって、社会の注目が大変集まってきています。それは、これまでの紙カルテから電子カルテへの移行という新しい課題です。
 画像情報などの大量のデータを含め、多くの検査を組み合わせた複雑な過程を経て行われる診断、新しい治療薬や手術方法が次々と開発される中で必要とされる綿密な治療計画、こうした医療の高度化は、必然的に記録するべき情報量を大幅に増大させました。これまでの紙カルテによる記載ではまかないきれない、大量の情報管理が診療現場では要求されるようになったのです。電子カルテは、こうした問題点を解決する重要な手段として、大きな期待を集めています。現在、電子カルテは表に示す三原則の下での運用が認められています。

難しい医療情報のセキュリティ

 これまでの紙によるカルテでは、紛失・持ち出し、さらには改ざんの問題が大きく立ちはだかってきました。また、汚い手書き文字による記載が起こす処方内容などの治療方法の取り違えなど、医療事故に結びつくさまざまな問題が、紙カルテでは大きな課題となってきました。電子カルテでは、こうした問題点は確かに大きく解決します。しかし、電子カルテが大量の情報を効率よく管理できるために、電子情報の再利用の容易性から来る大量の情報漏えいが新たな問題となってきています。
 これまで、こうしたカルテ情報の漏えいが紙カルテではなかったわけではありませんが、大量にたくさんの患者さんの情報が漏えいするということはほとんどありませんでした。それはたくさんの情報が大量の紙の移動を意味し、そのために幸いにも持ち出せなかったということがあります。しかし、電子情報ではこの安全性が一挙にひっくり返ってしまいました。最近、某大学病院において、パソコン内に保持していた多数の患者情報が、感染したコンピュータウイルスによってインターネット上に持ち出されるという事件が起こりました。また、医療機関内の職員が不用意にカルテ情報を電子情報システムから持ち出すこともあり得ます。このため、システム利用者アクセス制限などによる患者情報の電子保存の安全性の問題は、大変重要な課題です。
 電子情報は、ネットワーク化に重要なメリットがあり、地域においてカルテを共有する地域医療ネットワークの構築は、無駄の抑制や診療情報再利用の発展の意味で、大変重要な取り組みです。しかし、かつて想像もできなかった大量のカルテ情報をごく小さな記憶媒体に保存できる今日、図にも示すように、情報漏えいや紛失の危険はこれまでにない大きな問題となっています。

電子情報システムの活用による医療の発展を願って

 地域の診療所と専門病院の協力により医療を受ける患者さんにとって、メリットの大きい地域医療電子情報ネットワークが、これから本格的に展開しようとしています。私たちは、医療機関内外に個人情報のセキュリティを脅かすさまざまな危険が存在することを決して軽視せず、より安全でより価値の高い医療情報の活用を心がけていかなければならないと強く思う次第です。


こんどう よしあき

1956年生まれ
現職:東北大学大学院医学系研究科
   医学情報学分野 教授
専門:小児科学、腎臓学、小児医学情報学

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