スケールと動きの速さは
想像以上です。
「縦すじオーロラ」
(撮影:1996年9月/昭和基地/坂野井健助手)
基地から磁気南の方向に縦構造が等間隔に並んだオーロラが突然出現し,数十秒間後に消滅しました。
坂野井 和 代=文
text by Kazuyo Sakanoi
みなさん,はじめまして。私は南極昭和基地で第39次南極地域観測隊員として越冬生活を始めて,二ヶ月半程になりました。専門は超高層物理学で,昭和基地では宙空部門のオーロラ光学観測を担当しています。
昭和基地に到着したのは,南半球の夏真っ盛りの昨年12月下旬です。まず観測隊員全員で屋外作業を短い夏の間にやってしまわなければなりません。今年も到着から2月に入るまでは,新しい建物の建築,観測物資,生活物資の搬入,屋外観測器の設置,メンテナンスなどが行われました。
気温は暖かいとプラス3℃ほどになり,風さえなければ肉体労働ですのでTシャツ一枚で汗をかきながらということもあります。でも,ひとたび風が吹き出すと,あっという間に手先,足先の感覚がなくなり,2時間ほど作業をすると体も芯から冷え切ってしまう時もあります。
2月に入ると基地全体の運営が前次隊から私たちに移り,ようやく昭和基地でのほんとうの越冬生活が始まったという実感がわいてきます。
南極では夏の間は太陽が沈まない,いわゆる白夜と呼ばれる状態が続きます。そして,2月中旬頃からようやく空が暗くなり,このころ昭和基地で初めてオーロラが見られるようになります。今年は天候の悪い日が続き,初めてのオーロラは3月1日に昭和の夜空に見られました。360度ひらけた夜空を,白,薄緑,ピンク色をした光の帯が乱舞する様子から,”荘厳””神秘”といった言葉が頭に浮かんできます。想像以上のスケールの大きさと動きの速さ,波打つようなカーテンのような不思議な形に,観測器のピント合わせも忘れて屋上に座りこみ,ただ感嘆の声を上げるほかありませんでした。
「大陸から吹く風」
(撮影:1996年上旬/管理棟食堂より/坂野井健助手)
基地管理棟3Fの食堂から南極大陸が一望できます。
このときは大陸からの風で海氷上は吹雪模様,そこ
に朝日が当たり美しい紅色に染まりました。風の動
きに従って,その紅い帯ははためきながら基地に向
かってきました。
オーロラの観測を始めて1ヶ月半になりますが,いまだにその神秘性と美しさに心を奪われ,「どうしてあのように不思議な形になり,あんな風に動いてゆくのだろう…」と疑問は増すばかりです。この疑問はとても単純なものなのですが,オーロラの研究の最も難しい問題の一つともいえます。この他にも,「どうしてオーロラは発生するのか」を調べるために,昭和基地ではさまざまな観測器が動いています。
オーロラを簡単に説明しますと,エネルギーを持った荷電粒子が地球の上層大気に降り込んできて衝突し,この衝突によってエネルギーをもらった大気の原子や分子が出す光です。原子や分子の種類の違いによって光の波長(色)が違うことから,フィルターをつけた超高感度のCCDカメラや,微弱な光の強さに比例した電流を出力する機械などを用いてオーロラを観測します。こうして先程の疑問に対する解決への糸口を探ってゆきます。その他に,オーロラが発生すると電離層の様子が変わります。これらの変化を調べるために,様々な電波や磁場を観測してオーロラの謎に迫ろうとしています。
南極ではこれから厳しい冬に向かい,今度は太陽が沈みっぱなしの極夜がやってきます。一日中暗いこの時期は,オーロラ観測の本番でもあります。そこで,次回は厳しい冬の観測,生活の様子をお伝えします。
さかのい かずよ
1971年生まれ
東北大学大学院理学研究科助手
専門:超高層大気物理学