津波防災
 
〜現在の課題と将来への研究
今村 文彦=文
text by Fumihiko Imamura


津波常襲国での意識・災害の変化

 我が国沿岸では津波による甚大な被害を受け続けており、特に人的被害は著しいものでした。1896(明治29年)三陸地震津波では、2万2000名もの犠牲者を出し、「TSUNAMI」を世界語にした理由ともなりました。現在までに世界における津波犠牲者の三割強が我が国において生じています。恐ろしい自然災害ですが、地震発生から沿岸到達まで僅かの時間的余裕があるので、来襲前に安全な場所に移動できれば人的被害をゼロにすることも可能です。しかし、現在、この避難行動が適切に行われない危惧があるのです。
 2002年3月に石垣島南方で地震が発生し、初めて量的津波情報が出されました。津波の高さが数値で出されましたが、その結果に対する反応はさまざまでした。数値の定義がきちんと伝わっていないこと、数値だけでは危険性が分からないこと、津波の恐さが理解されておらず通常の高波と同じであると誤解していること、などが指摘されました。また、防災担当者や住民など人それぞれに、必要な情報の内容が違うはずですので、ニーズに合わせた提供が必要であると考えます。

図1 産官学で開発しているTIMINGシステム


情報の活用を目指して情報の活用を目指して

 そこで、さらに工夫した情報を提供する必要があり、図1に示しましたTIMING(Tsunami Integrated Media Information Guide)システムを開発し、この問題を解決したいと思っています。さらに、図2は、石垣島に来襲する津波のCG(コンピュータグラフィック)ですが、数値を可視化すれば、津波の挙動はさらに理解でき、また、その危険性も分かりやすくなると思います。さらに、提供方法の工夫も必要であります。現在の、テレビ・ラジオ、インターネットに加えて、携帯電話やBSテレビなどの双方向の情報交換も有効であります。地震発生後来襲前にインターネットを通じて、広域で詳細かつ正確な情報を提供するため、沿岸での観測データと連結した高精度の津波予測システムの確立を研究テーマに加えております。そこでは、津波計データの共有化、高度な津波シミュレーション、インターネット災害情報などを検討し、TIMINGというシステムの開発を産官学の共同研究として進めています。 http://timing.wni.co.jp/

図2 津波の数値解析結果の事例

予防防災へ

 リアルタイム情報も重要ですが、事前に被害をできるだけ低減させなければなりません。1695年以降、我が国の沿岸域では、防災施設整備を中心に防災対策が進められ、現在まで、人的被害の低減に大きな役割を果たしてきました。その一方で、沿岸の生活様式の変化や高度産業化の進展により、災害ポテンシャル(危険性)は減少するどころか増加しています。今までの高度産業化に伴い人間活動の影響が飛躍的に増大し、私たちが保全・維持すべき条件が拡大深化した結果、ちょっとした対応の失敗や配慮の欠如が重大な被害を及ぼすようになってきているのです。
 このような状況下で、沿岸での安全を確保するためには、潜在的な危険性を明確化することが最も重要な項目になっています。見えない状況や将来の様子を明らかにすることは大変難しいことですが、少しずつ可能になってきております。土地利用を含めて対象地域で災害発生規模や頻度が分かると数値シミュレーション技術を利用・駆使することにより、推定・予測がある程度できるようになります。
 現在、数値解析技術が発展し、発生から陸上への遡上までの現象を精度よく再現・予測できるようになりました。さらに、人的・家屋被害、建物被害などの発生条件・基準を与えれば、被害の量的な推定ができます。これらの結果をハザードマップとして、詳細な地形図などに取り入れ、事前情報として与えることは大変有効となっています。

いまむら ふみひこ

1961年生まれ
現職:東北大学大学院工学研究科附属
   災害制御研究センター長 教授
専門:津波工学、災害科学
http://www.tsunami.civil.tohoku.ac.jp


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