研究教育においても、グローバルな視点からの対応が懸案となっています。そこで、最近視察することができた米国の最先端教育から受けた感想を述べて、提言としたいと考えます。
平成12年の11月から12月にかけて、米国カリフォルニア大学バークレイ校(UCB)に教育(特に理科実験ならびに教養教育)の視察に行く機会を得ました。その際、教育に対する取り組みの日米間の違い、とくに、大学院生を積極的に講師として採用して、学部学生を教えることを通しての教育とそれに対する財政的裏付けについて、その差を痛感しました。
日本における大学院生のティーチング・アシスタント(TA)、リサーチ・アシスタント(RA)も同じような主旨ですが、UCBでは、呼び名も大学院生講師すなわちグラジュエイト・インストラクター(GI)としており、さらには、成績が優れた学部の学生については、学部の時代からアンダーグラジュエイト・インストラクター(UGI)として、名誉ある役目を与え、後輩の教育に携わることにインセンティブを与えています。
知識を理解し身につけるためには、それを教えながら応用することが大変有用です。これは自分の経験からも何回も体感していることです。人を教えることが、真に身に付いた学びにつながり、使え、かつ創造に繋がる知識になることを痛感します。このような意味で大学教育に限らず、教えることを通して学ばせることは、一般的にも非常に有効な方法であると考えます。大学に当てはめて考えれば、学部学生への教育経験が真に大学院学生のためになるようにできれば、両方にとって、さらには大学にとっても、はなはだ好ましい状況になると考えられます。
そのためには解決しなければならない2つの重要な点があります。それは、財政的な裏付けと、GIを育てる専門的人材です。UCBでは大学院生を有効にインストラクターとして活用するために、3セメスター分のGIとしての活動が博士課程の修了要件となっています。これにより、全大学院生のほぼ半数に相当する数のGIを確保しているのです。GIに対する謝金の額も日本のTAとは桁違いで、この時の謝金で3年間の大学院課程を卒業するにたる学費を与えています。そして、GIを訓練する特別なセンターがあり、そこには教育専門のスタッフを置いて、GIの訓練や活用方法の研究等に効果を上げています。
このようなGIシステムには、それなりの経費と施設と人員とが必要になりますが、うまく運営できれば大学、教官、学生(大学院と学部)の全てにとって益することが多く、また、なによりも教官の教育負担を軽減し、研究に対してより多くの時間を配分することを可能とすると思われます。
このように、教えることを通しての学びは、大学教育のみならず、高校、中学さらには、多くの教育機関(例えば、科学館など)でも、活用されることが望まれます。
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