[研究室からの手紙]
       
ヨーロッパの単一通貨ユーロの話
田中 素香=文
text by Soko Tanaka

 

 最近、ユーロが円・ドル双方に対して上昇し、注目を浴びています。ユーロはEU(ヨーロッパ連合)15カ国のうちの12カ国、ドイツ、フランスなどで流通している単一通貨です。1999年に導入され、当初は銀行口座振替だけで利用されていましたが、2002年1月に紙幣と硬貨が各国紙幣・硬貨に代替し、3月からユーロだけの流通となりました。
 筆者は昨年5月、フランスの大学院学生にユーロに関する講義をした折に、ベルギーに旅行しましたが、昔は大変だった貨幣の両替が不要となり、その便利さに感心しました。以前は、たとえばフランス人が10万フランをもってEU12カ国を旅行すると、フランスに帰国したときには両替手数料だけで所持金は半分の5万フランになると言われていました。今は手数料ゼロです。企業も個人も節約でき、フランス企業がスペインなどとの間で仕入れや販売をするのも簡単になりました。
 日本は、1970年代から変動相場制の導入による円高円安の急激な変動に泣かされてきました。日本経済の停滞は円相場のせいだという人もいます。EUでも事情は同じだったのですが、ヨーロッパ人は現実を嘆くだけではなくそれを克服する単一通貨という方法を考え出し、30年かけて実現してしまいました。
 常識では通貨は国が流通させるものです。EUは経済共同体ですが、EU大統領もEU首相もいないことが示すように国にはなっていません。しかしユーロを流通させる法律(EU法)と欧州中央銀行を創り、その常識を乗り越えてしまいました。通貨や国についての考え方を変えたと言ってよいでしょう。

 ユーロ紙幣の表には窓が、裏には橋がデザインされています。窓は世界に開かれたEUを、橋は世界と協力するEUを象徴しています。世界で飛びぬけた武力を振り回し世界を不安に陥れるアメリカよりも、ユーロによって国を乗り越えた協調を進めるヨーロッパの方がずっと21世紀にふさわしいと思いませんか。ユーロについてもっと詳しく知りたい方は筆者著『ユーロ その衝撃とゆくえ』(岩波新書 2002年)をご覧ください。


たなか そこう

1945年生まれ
現職:東北大学大学院 経済学研究科 教授
専門:経済政策学、国際経済論

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