【ふれあい座談会】 | |
東北大学と地域コミュニケーション |
出席者
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丸森
仲吾 (株)七十七銀行取締役頭取 横山 英子 (社)仙台青年会議所特別顧 (社)日本青年会議所監事 阿部 博之 東北大学総長 |
国立大学の法人化問題を見据えて、東北大学は「地域に開かれた大学」を指針に、「オ−プンキャンパス構想」をはじめさまざまな施策に取り組んでいます。一方、地域活性化をねらいに、東北大学が地域の新産業創出などへ果たすべき役割もますます大きくなりつつあります。 そこで、これらの動向を背景に、「東北大学と地域のよりよい関係づくりはどうあるべきか」を論題に、学外の方にご意見をうかがう座談会を開催いたしました。地域の中の東北大学を再認識する一助になれば幸いです。 |
地域貢献がキ−となる時代へ |
阿部:お忙しい所、ご出席いただき有り難うございます。早速ですが、今、大学は世界的に変わりつつあります。日本はこれまで画一的な大学運営でしたが、法人化を契機にそこから脱するのが急務です。欧米の大学は個性化傾向にあり、多くの示唆があると考えます。 丸森:東北大は、学都と呼ばれる仙台の中核にあり、学生が地元に落とすお金をはじめ経済効果が大きいことが注目されますね。昔は、学生が飲食した際に店主が「出世払い」と言って百円以上は受け取らなかったものです。街が学生を温かく見守る風潮が、だんだんなくなってきたことは残念です。 阿部:ベンチャ−ビジネスは、大量生産志向ではやりにくく、中央資本に吸収されがちです。しかし、これだけ不況になると、世界の競争を視野に入れ地域に無い産業を起こしていくことが重要視されます。自治体、経済界と連携を深めて、大学は知識創造型のセンタ−の役割を担っていくべきだと痛感しています。 横山:確かに今、仙台は元気がありませんから、東北大をキッカケに活路が拓かれることに期待したいです。実際、仙台が話題になる際に、東北大が契機になることが多いです。海外でも、仙台と言えば東北大の学都であり、さらに八木アンテナをはじめ開発技術の話が数多く聞かれ、この話題から交流がスム−ズになることもあり、世界的な注目を集めている大学だとわかります。 |
市民との相互協力は必須 |
横山:中心街に近い片平キャンパスは学内以外のファンが多いですよね。転勤族の奥様が、片平の桜が気に入って「私の桜」と名付けて、仙台を離れてからも会いにくる話もある位ですから。 阿部:そうですか。キャンパス移転に伴い、片平キャンパスを今後どう活用するか、が一つの課題でもあり、宮城県や仙台市と相談しながらいろいろ考えております。片平には記念構造物が多く、この歴史的遺産を大切にしたいという市民グループもあり、どうにかしたいとは思っています。現時点では社会人が集まってくるような大学院クラスやロ−スク−ルなどに、片平の一部を使えないかと模索しています。歩いて中心街へ行けますから、市民との接点が強いことを活用するという考え方が大事ですから。そういうことも市民グループなどが応援してくださると早く実現できると思います。 横山:実現するにあたっても、ファンドの点が大きな課題となりますから、自治体や民間からの資金を受け入れられるよう、どこまで開かれているかも問題ですね。 阿部:文部科学省から法人化への最終案がでて、国立大学法人になりますと、資金を受け入れる際に、どう弾力的に対応できるようにするか、注目されます。文部科学省も欧米事情などを理解しておられますから、産業支援の面も含めて、四角四面の法人にはならないように思います。 丸森:経営の母体は国だから、金も出すけど口も出すでは、今までと変わりません。日本の将来をどう創っていくか、に関わることですから、ぜひ慎重に対応していただきたいものです。 |
社会的要請に応えて− |
丸森:私どもの行員が、東北大学大学院に入学してお世話になるケ−スも多いのですが、より専門的な知識に対する企業からのニーズは大きいと思います。 阿部:社会学の観点から言えば、日本の教育過程ではこれまでプロフェッショナルではなくゼネラリストの育成が主でした。しかし、もっと専門的でないとビジネス対応ができない面がありますので、社会人にとって経営大学院や法科大学院は魅力ですね。東北大では、このような高度専門職業人の教育を一つの柱にしようとしています。法科大学院は二年後のスタ−トを目処にしてますし、MOT(技術社会工学)の教育課程を今年から導入しました。このMOTは技術系から見た経営工学であり、アメリカで注目されMBA(経営学修士号)の一部に入れられています。つまりは、発明、発見をどうビジネス化していくか、を学ぶ分野です。とにかく、社会教育に対するリクエストにできるだけ応えていきたい、と考えております。 横山:今、「ゆとりの教育」が指針になっておりますし、基礎学力が落ちていることも見逃せません。週休二日制や総合学習が導入されましたが、この機会に大学が子供たちの教育に関わってほしいと考えます。子供の隠れた能力を引き出すことをねらいにした、さまざまな学習に大学が関わってほしいものですね。 学長:「ゆとりの教育」への対応は、なかなか難しい問題ですね。大学は入試システムを変えることはできるでしょうが、一大学レベルでどこまで対応できるか、は難しいです。ただ、子供の教育をサポ−トするという点では、「オ−プンキャンパス」を開催して研究の現場にふれる機会を作ったり、「サイエンスに興味を持たせよう」という施策を進め、夏休みなどに教官が対応しています。また、川内にオ−プン予定の東北大学総合学術博物館が、展示や情報公開、セミナ−などを通して子供たちの教育のよりよい受け皿を提供することになるでしょう。 丸森:大学と地域のつながりという観点で言えば、行政が組織する委員会に先生方が出席されてますが、今後もいろいろ提言された方がいいと思います。地元の企業の中には東北大の先生の指導の下、新技術の立ち上げを行っている企業もあると聞いてますが、このような企業と先生とのコンタクトも大切にしながら、地域との絆を深めていってほしいものです。 阿部:そうですね、新産業創出を視野に入れて大学の知的財産をどう活用していくか、は重要視されます。ただし特許、著作権などをはじめとする知的財産を大学や研究所が保持していくにも、日本は非常に弱い。活用して保護する風土がないからです。アメリカはそういう風土が進んでいるだけに、知的財産の活用は活発化しているわけです。例えば、宮城県や仙台市が東北大に資金を出して事業を進めていくことは、実は地方財政法の縛りがあり難しい。大学はもちろん国としても、この知的財産に関しては、欧米と競争できるだけの戦略を持つべきだと考えます。私は今、国が組織する知的財産戦略会議の座長を担っていますので、この問題を何とかしたいとあれこれ論議を重ねています。大学の法人化に関しましても、知的財産の活用を円滑にできるしくみを視野に入れて、法人化の各論を詰めていってほしいと願っています。そういうしくみが作り上げられてこそ、地域に幅広く貢献できる「開かれた大学」としての歩みにはずみがつくものと考えます。 |