太陽系惑星のドン
「木星」の素顔を探る

森岡 昭=文
text by Akira Morioka


巨大惑星・木星
   太陽系には九つの惑星がありますが、その中の最大の惑星が木星です。丁度、今の時期、日没後に、首を大きくそらして夜空を見上げると、ひときわ明るく、あたりを威圧するかのように輝いている星、それが木星です。ギリシャ神話のなかで「神々の主宰者・ジュピター」と呼ばれるにふさわしい存在です。地球に最も近づいたときでも6億kmの距離、電波で片道40分かかるところに位置しています。この巨大な惑星・木星は、今から46億年前、太陽系の惑星が作られていく過程でもう少し大きく成長していたら、太陽と同じように自ら光を発して燃えさかる第2の太陽になっていたであろう、つまり「太陽になり損ねた星」と言われています
福島県飯舘村に建設された 惑星シンクロトロン電波望遠鏡

謎に満ちた木星周辺の宇宙現象と環境
 この木星は、その図体がずば抜けて大きいことだけが特徴ではありません。9時間55分という大変早い時間で自転し、また地球に比べて2万倍もの強い磁場をもっています。そのため、木星の周辺では、さまざまな宇宙現象がおこります。木星から張り出す強い磁場は、太陽から吹いてくる高速(400km毎秒)で高温(10万度)のガス風(太陽風)をせき止めています。この木星の磁場によって太陽風から守られた木星周辺の広大な空間を、磁気圏と言います。
 そして、木星に向かった探査機による観測の結果は、木星磁気圏の中で起こっている宇宙現象と惑星環境は、地球の知識から私たちが想定していたものをはるかに越えているものばかりでした。磁気圏のなかでは粒子が激しく加速されていること、その加速された粒子が極めて強い電波を宇宙空間に向かって放射していること、木星の衛星イオは太陽系で最も活発な火山活動を行っていて広大な磁気圏に大量の物質を振りまいていること、木星の極地方には地球が3つも入るほどの巨大なオーロラが発生していることなど、これまでの「地球の常識」をうち破る事実が次々と明らかにされてきています。


地球から木星の宇宙現象を観測する
 こうした太陽系最大の惑星・木星で起こっている宇宙現象の謎を解き明かし、惑星環境の変動を支配している物理過程を探求する研究は、人類共通の知的好奇心に基づく科学の探検とも言えます。
 木星の宇宙現象を観測するには、木星に直接、観測器を送り込んで観測する方法と、遠くから全体の様子とその変化の様子を観測する方法とがあります。私たちは、遠く地球からこの木星の謎を電波と光で探る研究観測を始めています。これは丁度、ひまわり衛星による地球上空からの写真が、低気圧の速度や動きを良く伝えてくれるように、地球から木星周辺のガスやエネルギー粒子の発する微弱な光や電波の分布や変動を観測して、謎を解く手がかりを得ようというものです。

光で衛星イオから噴出するガスを探る
 その1つが、イオ衛星から振りまかれる火山ガスの振る舞いの研究です。イオ衛星は地球の月より1回りほど大きい天体ですが、木星の強力な重力の影響で常に激しい火山活動をしており、硫黄や酸素などの大量のガスを噴出しています。このガスは、やがて木星の磁気圏を満たし、巨大オーロラの起源になったり、高エネルギー粒子の種になっていることが知られています。
 しかし、火山からの噴射速度は、とてもイオ衛星の重力を振り切って磁気圏に逃げていけるほど大きくはありません。では、実際にはどのようにして、イオ衛星から外に向かって飛び出しているのか、それを明らかにしていこうという研究です。そのためには、ガスの雲から放射される特殊なそして微弱な光を捕える観測を行います。
 この観測は、長い時間にわたって連続して行うことが必須です。そのため、専用の望遠鏡による天候の安定した点での観測が必要になります。私たちは、可搬型の比較的小さい望遠鏡でも弱い特殊な光を高感度で捕えることのできる装置を開発して、オーストラリア中央部の砂漠やハワイの山頂での観測を行って来ました。その結果、イオ衛星から外方に向かって飛び出していく様相を鮮明に捕えることができました。現在この結果と計算機シミュレーションとをあわせ、イオ衛星からのガス脱出過程が明らかにされつつあります。

電波で高エネルギー粒子を観測する
 木星の磁気圏の中には、非常に高いエネルギーを持った粒子が多量に存在します。その粒子は、エネルギーが高いため、光の速度に近い早さで運動しています。自然が造った数億ボルトもの加速器が、木星磁気圏の空間に存在していることになります。自らエネルギーを発しない惑星がどうしてこのような高いエネルギーを作り出すことができるのか、まだその謎は解かれていません。
 その謎を解く手がかりは、この粒子から放射されている電波の持つ情報にあります。電波はシンクロトロン電波と呼ばれていますが、遠く6億kmの地球に到達するときには大変微弱なものとなっています。私たちは、この電波を捕え研究するべく、大型の電波望遠鏡を設置しました。場所は、人工電波による障害が少なく自然電波観測に適した、福島県飯舘村にある東北大学惑星圏飯舘観測所です。現在、この電波望遠鏡の性能を引き出すための各種の試験と調整が進められているところで、まもなく本格的な観測に入ることになります。

もりおか あきら

1943年生まれ
現職:東北大学大学院
   理学研究科附属
   惑星プラズマ・大気研究センター長
専門:惑星磁気圏物理学
hp:http://pparc.geophys.tohoku.ac.jp


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