市民のための“成人病”講座
「高血圧と予防」

伊藤 貞嘉=文
text by Sadayoshi Ito



さまざまな成人病に関わる高血圧
 病院の外来で測った血圧値が、収縮期で140mmHg 、または拡張期で90mmHg 以上の場合、高血圧症と定義されています。自宅で測った場合のはっきりした基準値はないのですが、130/85mmHg 以上が高血圧とされています。
 高血圧は生活習慣病の一つで、生まれつきなりやすい体質を持っていること(遺伝子の関与)のほかに、動物性脂肪や塩分の摂り過ぎ、運動不足や過度の飲酒などの生活習慣がその発症に大きく関わっています。
 高血圧は多くの場合無症状ですので、放置されがちです。しかし、壮年の働き盛りに突然脳卒中や心筋梗塞になったり、気づかないうちに腎不全になったりする例が多くみられます。
 以前、日本における死因の第一位は脳卒中で、その主な原因は脳出血でした。それが、高血圧の治療の進歩により減少し、現在の死因の第一位はガンになっています。しかし、高血圧が関係する脳卒中と心臓病は第二位と第三位であり、これらを合わせると第一位のガンをはるかに超える数となります。
 また、腎不全のため血液透析を新規に受ける人は毎年三万人以上で、その原因の三分の二を占める糖尿病や腎臓病でも血圧が高いと、腎不全になりやすいことがわかっています。

適切な検査と治療が必須
 近頃は治療法が進歩し、心筋梗塞や脳卒中になっても命が救えるようになりました。ただし、そのような人々のほとんどが麻痺などの身体に重大な障害を残して、長い期間、不自由な生活を強いられています。また、寝たきりとなる人も少なくありません。
 こうしてみますと、高血圧や糖尿病を予防したり、適切な治療を行うことが、社会的にも、また一人ひとりの生活の質の点においても大変重要であることがわかります。しかし、現実においては糖尿病は増加する一方であり、高血圧や動脈硬化による合併症も決して減少はしていないようです。
 現在、わが国には、二千〜三千万人の高血圧の患者さんがいると言われています。その半数が治療を受けていません。しかも、治療を受けている場合でも、約半数(全体の25%)しか血圧がうまくコントロールされていないと言われています。
 高血圧の患者さんの85〜90%は、原因が解明されていない本態性高血圧です。遺伝性が強く、多くの遺伝子が関わっていると考えられていますが、まだその詳細は不明です。残りの10〜15%は原因の疾患があるもので、二次性または症候性高血圧症と呼ばれています。
 中には、手術などで原因となっている部分を取り除くことで、高血圧が治ってしまうものがあります。したがって、40才未満の高血圧に降圧薬が効きにくい場合、短期間の間に血圧が上昇してきた場合などは、漫然と薬を続けないで、専門医で検査を受けることが必要です。

医師と相談しながら薬を服用し、高血圧と上手に付きあう。
 高血圧の予防策には、肥満の解消、減塩、運動などがあります。運動は有酸素運動が有効で、30分位の早歩きが勧められています。
 しかし、生活習慣の改善だけで血圧を正常まで下げられるのはそれ程多くなく、ほとんどの場合、薬物療法が必要となります。現在は効き方の違う優れた薬剤が多くなり、また副作用も大変少なくなっています。
 高血圧の薬は一旦服用すると一生続けなければならないから服用しないという人がいますが、そのために脳卒中や心筋梗塞、腎不全などになったのでは元も子もありません。担当の医師と相談しながら高血圧と上手に付きあって、合併症を防ぐことが大切ということになります。



いとう さだよし
1954 年生まれ
現職:東北大学大学院
医学系研究科教授
専門:腎臓病学、高血圧









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