[研究室からの手紙]


燃料なしで疾走するエアロトレイン

小濱 泰昭=文
text by Yasuaki Kohama




【図1】エアロトレインのイメージスケッチ
地球環境の保全をめざして
 自動車、電車、飛行機など実に便利で快適な交通機関は、すべて石油や石炭、原子力などの燃料を、大量に消費して運行されています。その結果、炭酸ガス、放射性廃棄物などが排出され、地球温暖化問題、環境ホルモン問題が深刻になっています。
 このままでは、私たちの子孫が安全に安心して生活できる環境が、なくなってしまいます。この問題を根本から解決できる具体的な提案はないものでしょうか?
 もしも、燃料なしで走る乗り物が実現したら、と技術者は考えます。実際、ソーラーカーやヨットは、すでに燃料なしで走ることができます。しかし、実用的に使用できる状態のものは、やはりまだありません。
 今ある科学技術で、何かできないものでしょうか。そのような観点から私たちによって発案されたのが、エアロトレインです(図1)。
 開発の基本は、1、限りなく少ないエネルギーで走らせる交通システムの開発、2、自然エネルギーを複合利用、安定供給できるシステムの開発、です。このエアロトレインは、3両編成で350人乗り、500km/hで高速浮上走行します。

自然エネルギーの有効利用で高速走行
 ペリカンなどの長距離飛行する大型の鳥は、地面、水面と翼の空気的干渉を利用(地面効果)して、省エネ飛行(滑空)をしています。エアロトレインは、この性質を取り入れ、消費エネルギーを可能な限り少なくします。
 リニアーモーターカーが磁気反発力を利用しているのに対して、エアロトレインは地面効果による空力反発力で浮上走行します。こうすることによって、新幹線よりも、飛行機よりも、リニアーモーターカーよりも、少ないエネルギーで高速走行が可能になるのです。
 そうすると、従来、エネルギー密度が小さい、という理由からあまり重要視されなかった自然エネルギーが、有効に利用できるようになります。そのためには、複数の自然エネルギーを収集、貯蔵、安定供給するための新たなシステムの開発が必要です。

 図2に、エアロトレインのエネルギーフローを示しています。この場合は、太陽エネルギー、風力エネルギーを考えます。昼、そして風の強い日には大量に電力を発電し、それを水の電気分解によって水素(理想的な燃料)と酸素(燃料を燃やす酸化剤)に分解、貯蔵します。そして、夜や雨の日、そして無風状態の時、燃料電池を作動させて電力を生成して、エアロトレインを走らせます。こうすることで、24時間天候に左右されることなく、高速輸送システムとして安定的に走行させることが可能となります。原理的には、燃料なしで走らせることができることになります。
 試算しますと、エアロトレインのみでは使い切れない程の電力が発電できるので、周辺地域の生活単位へも電力を供給することが可能となります。つまり、このシステムは、交通機関のみではなく、発電所としても機能するわけです。


コンセプトの実証へ走行実験中
 現在、私たちの研究室では、このコンセプトを実証するために、宮崎県にある(財)JR総研所有のリニアー実験線「浮上式鉄道宮崎実験センター」の跡地を利用して、走行実験を行っております。
 現在実験中のエアロトレインモデルの走行写真を、図3に示します。まだ赤ん坊みたいなもので、後ろからトラックで押して走行、浮上するタイプの実験車両です。55〜85km/hで安定浮上走行が成功しております。
 つぎの研究ステップは、無人であり、150km/hという低い速度である以外は、図1、図2に示したイメージスケッチに描かれた技術すべてを実証することです。宮崎大学、熊本大学の協力も得て、このステップの研究を成功させるべく頑張っております。




こはま やすあき
1945年生まれ
現職:東北大学流体科学研究所教授
専門:航空流体力学