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第18号(2010年1月)
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全学の英知を結集し、大学のワンランクアップへ。


信州大学長
山沢 清人 (やまざわ きよひと)


◇目前の風景によみがえる、仙台時代の記憶。

 10月から長野キャンパスから松本キャンパスへ移りましたが、松本も城下町ですし学生時代の仙台とよく似ているところがありまして、ふと当時を思い出します。

 高校の時に物理の授業があり、そこで学んだ電気のあれこれが面白く、もっと勉強したいと思いました。電気系は東北大学が有名でしたし、スキーをやりたかったので、入学することにしました。今もインストラクターの資格を持っています。信州大学に来たのも、実はスキーをやれることが魅力でしたね(笑)。

 私が東北大学へ入学したのは1964年です。出身が東京でしたので、当時の仙台は結構、カルチャーショックでしたね(笑)。教養部の英語の先生に方言のなまりがあって驚きました。でも、その先生は、ロシアに漂流した日本人の研究をなさっていて授業中にもその話をされ、敬服したのです。それで、人間は表面のことより中味が問題なのだと痛感した次第です。当時は米軍の兵舎の跡地で授業を受けていましたが、内容のある授業でした。

 学生運動があった時代でしたから、教養部の授業がよく休講になりましたね。そういう時には、硬式野球部に入っていたので評定河原球場で青空の下、練習をしていました。それから、工学部の学生でしたがよく本を読んだものです。冬のこたつで、酒を飲んだりするお金もないので、よく読書をしていました。人間は言葉でものを考えますから、活字で考えた方が系統立って考えられるのです。そのトレーニングを若い時にしてほしいので、学生の皆さんには本を読んでもらいたいですね。


◇学部を越えた研究・教育体制づくりを

 4年前に工学部長に就任して以来、これからの工学部はどうあるべきかと常々考えてきたものです。それを実践するには工学部にとどまらず、信州大学全体に関わる問題であると考えるようになりました。

 信州大学は松本、長野、上田、南箕輪の4つのキャンパスに分かれていて、工学、理学、農学、医学、人文系に至っても、なかなか一体感がとれにくい状況でした。工学部がさまざまなテクノロジーを持っていてもどういう使い方を目的にするのかとなると、工学独自の考え方だけで工学研究を引っ張る時代は終わったと言えます。環境問題などを含めて、役立つ技術のあり方が見直されてきていますからね。それをやりにくい所が信州大学の一番の弱点かな、と考えました。工学部は材料をはじめ個別の研究は優れたものがありますが、システム的な所が弱かったのです。他の学部の先生といろいろと話し合って、信州大学として融合化を図る方向へ行こうという意識が高まりました。信州大学はもっと学部を越えた研究・教育の取り組みをすべきだと考えて、学長へ立候補したのです。


◇全学の連携・融合力で地域貢献

 大学運営のもう一つのファクターは、社会貢献です。地方国立大学が生きていく一つの道として地域貢献が重要です。地域に対してどの位、貢献しているかに目を向けながら、信州大学としてきちんと取り組んでいかなければならないということです。いい意味では、4つのキャンパスが長野県内に点在していて、南箕輪に農学部、長野には工学部と教育学部、松本には医学部、理学部、経済学部、人文学部というようにバラバラにあるわけです。各地にあるので、長野県民は自分たちの大学という意識が高いと言えます。

 例えば、唐辛子を作りたいとか、そばの収益を上げたいとか、そういう地域の要望に応えるには農学部の連携が必要になります。こうした地域ニーズに応えるにも、学部間の連携、融合が必要なのです。つまり、長野県全体の地域活性化に役立つには様々な学問が入ってきて取り組んでいくことが大事なのです。それで、そういう取り組みをしていきたいと考えています。全学の英知を結集して、信州大学をワンランクアップさせたいというのが願いです。

 実際に、教育・研究プログラムを学部を越えて企画してほしいとお願いしたら、5〜6件の応募枠に27〜28件も集まりました。地域活性化をめざして、棚田の研究を中心に、伝統芸能の伝承、土木事業のあり方や地域医療の体制づくりなどに至るチームを作りたいという案もありまして、今後が楽しみになっています。

 また、ここは日本アルプスの玄関口であることから、理学部の中に山岳科学の研究部門があり、大学の個性を特徴づけています。そこに、人文系、経済系も入って、大きな組織になって進展してほしいと願っています。


◇東北大学の力を活かして、東北地方の活性化へ

 東北大学は、大きな意味で二つ使命があると思います。一つは世界に誇れる先端研究をやり続けることです。それだけのリソースを国から与えられていますし、優秀な人材が集まり、人材を育てる力もあります。そこをぜひ続けていただきたいと思っています。

 もう一つは地域貢献です。東北大学は常に世界に目を向けていますが、もう少し地域にも目を向けてほしいと考えています。東北大学の研究のシーズを使う産業が地元になかなかないのかもしれませんが、科学技術に限らず人文系のリソースも東北大学は持っていますから、いろいろなやり方があると思うのです。東北地方というエリアを大きな目で見て、その活性化策を視野に入れていただければと思います。

 例えば、農作物の作柄は温暖化の影響を受けます。このまま温暖化が進むと、稲作もリンゴ栽培も北海道に集中してしまうのではないかと予測されています。東北地方が空洞化しないよう、研究成果を活かした対策を講じることなど、貢献が期待されているのではないでしょうか。

 今、国立大学法人の経営は厳しい状況にあり、事業仕分けなどで今後はさらに厳しい状況におかれる可能性もあります。しかし、教育は国家百年の計ですし、世界の中で資源のない国が生きていくには、高等教育のあり方が重要視されます。明治時代以来、国立大学が全国各地に設置されました。国がその存在を保障している高等教育機関が地域にあり、入学すれば高等教育が受けられるというシステムは重要です。このシステムを今後も大事にして、さらなる大学の活性化へ取り組んでいくべきであると考えています。


Profile :山沢 清人(やまざわ きよひと)

1944年 東京生まれ
1970年 東北大学大学院工学研究科(電気及通信工学専攻)修士課程修了
1970年 東北大学工学部助手
1979年 信州大学工学部講師
1993年 信州大学共通教育センター研究開発部門長
2003年 信州大学学長特別補佐(平成17年6月10日まで)
2006年 信州大学工学部長(平成21年3月31日まで)
2009年10月 信州大学長




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