多彩なリテラシー3 日本の文化を支えた真名の世界
「大塔物語」

東北大学附属図書館藏「デルゲ版チベット大蔵経」
東北大学大学院文学研究科所有写真原板による

 おおよそ八世紀後半以降、国力の充実を見たチベット人は隣国インドで広まった仏教を熱心に取り入れ、サンスクリット語などインドの言葉で記された経典や論書を母国の言葉に翻訳し信仰の礎としました。インドの高僧がチベットへ招かれ、またインドの大僧院で研鑽を積んだ留学僧達が活躍するなど、数世紀に亘ってその知的営為は維持され、遂には四千書を超える一大コレクションとなりました。一般に「チベット大蔵経(だいぞうきょう)」と呼ばれるもので、主に経典と律(出家者が守るべき規則)とを収めた「仏説部(ぶっせつぶ)」と、経典の解説や儀式のやり方などを収めた「論疏部(ろんしょぶ)」の二部分から構成されます。
 当初手書きの写本で伝えられていたのですが、十五世紀初めに中国で行われた木版による印刷がチベットでも取り入れられ、何種類かの異なった版本が作り出されました。写真に掲げた東北大学附属図書館所蔵本もその中の一つで、「デルゲ版」と通称され、日本人として初めて正式なチベット仏教僧となった多田等観(ただとうかん)先生が、知遇を得たダライラマ十三世より贈られたものです。チベットのデルゲ(四川省北西部に位置する徳格県)において十八世紀中頃に土地の王が施主となって開版したもので、内容の正確さと印刷の美しさをともに備えた優版として知られています。
 多田先生は本学文学部の講師として学生の指導に当たるかたわら、膨大なチベット仏教文献の整理と目録作成に尽力され、日本学士院賞を受賞されました。

東北大学大学院文学研究科 教授
インド・チベット仏教学
桜井 宗信


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|編|集|後|記|
2011年も残すところわずかとなりました。本年最大の出来事は、言うまでもなく3月の東日本大震災です。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心より御見舞い申し上げます。仙台の地にある東北大学も少なからぬ被害を受けました。しかし、4月には多くの研究室で研究活動が再開されました。また、東北大学病院は震災直後から宮城県の診療の中心として活動しました。病院屋上のヘリポートには沿岸部からの患者さんを搬送するヘリコプターが続々と着陸し、職員は懸命の診療にあたりました。未曾有の大震災にあって、不満を漏らさず淡々と復興に励む日本人に対し、諸外国から賞賛の声が上がっています。東北の人々が世界の尊敬を集めたことは、震災の大きさにも増して歴史に刻まれるべき事実だと思います。今回の震災により、私どもは東北地方における文化・科学の中心的担い手としての東北大学の責任を再認識しました。2012年が、輝かしい日本新生の年となることを祈念しつつ、本年最後の『まなびの杜』をお届けいたします。
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