温室効果ガスの削減率を目標値として設定
京都議定書は、一九九二年に採択された気候変動枠組条約に基づき、一九九七年十二月に京都で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で議決された合意文書で、正式名称は「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」です。
具体的には、温室効果ガスの先進国における排出量の削減率(一九九〇年が基準年)を数値目標として各国別に定め、共同で約束期間内(二〇〇八年~二〇一二年)に目標値を達成することを定めました。一方、一人あたりの排出量は小さく、これから発展しなければならない途上国は、公平性の理由から数値目標は課せられないことになりました(これは「共通だが差異のある責任と能力原則」と呼ばれています)。
気候変動枠組条約締約国会議の様子
(2008年12月ポーランド・ポズナニの会議場にて明日香撮影)
表)京都議定書で規定された先進国の排出削減数値目標
激しい交渉を繰り広げる、異なる意見の対立構図
条約発効以降、毎年年末に2週間の会期で開催されるCOPでは、異なる意見が激しくぶつかりあう交渉が常に繰り広げられています。基本的な対立の構図は、「先進国同士(温暖化対策に積極的なEU諸国vs温暖化対策に消極的な米・豪・カナダ・ロシア・日本)と「途上国にも責任を負わせたい先進国vs先進国の責任を問い続ける途上国」の2つです。
現在、二〇一三年以降の枠組みに関して激しい交渉が繰り広げられていますが、残念ながら、今でも、対立の構図はあまり変わっていません(ただし、途上国においても、最近、島嶼国や低開発国と新興国との間の対立が見え始めています)。
日本においては誤解されている人が多いのですが、必ずしも国際社会には、京都議定書は二〇一二年で終わるという共通認識はありません。あくまでも京都議定書の中の先進国の数値目標の達成時期を規定した第一約束期間が二〇一二年に終わるということであり、途上国側は、京都議定書の二〇一三年からの第二約束期間の先進国の数値目標の決定が、現在の交渉の最大のマンデート(決めるべきこと)だと主張しています。これに対しては、現在、日本は「米国や新興国の法的拘束力がある数値目標も含めた統一された議定書を新たに策定するべき」と反対しています。京都議定書の生地である日本が、実質的に京都議定書を終わらせようとしている(少なくともそう見える)のは皮肉的かもしれません。
国際的な「温暖化対策」実施への最初の一歩
いずれにしろ、京都議定書の第1のポイントは法的拘束力がある数値目標です。ですが、第2のポイントである排出量取引制度などの京都メカニズムと呼ばれるシステムを導入したことの意義も大きいです。これは、簡単に言えば、CO2などを排出する権利や排出枠みたいのものを売ったり買ったりする仕組みですが、これが入ったことによって地球全体では最低のコストで同じ目標を達成できることになりました。
これまで環境問題、特に地球環境問題は、建前の議論や総論賛成各論反対ばかりで、実際には何も前に進まない場合がほとんどでした。それが、義務的な数値目標の下での温暖化対策の(かけ声だけではない)実施、環境技術や省エネ技術の移転、資金の途上国への移転など、実際にお金や技術が国内と国際社会の両方で動く仕組みを一九九七年に京都で作り上げました。もちろん、京都議定書は完全なものではありませんし、国際的な枠組みの最終形でもありません。先進国と途上国の対立もまだまだ続くと思われます。しかし、最初の一歩という意味では理性の勝利とも言うべき快挙で、人類史上、とても画期的なものです。
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