“極夜”の真冬、
南極はオモシロ大陸。



「転がる太陽」(撮影:1996年7月21日/昭和基地/)
ミッドウィンターの頃は昇らなかった太陽も7月下旬になると顔を出します。
その頃の太陽は地平線上すれすれに移動するので、「転がる太陽」と呼ばれます。


坂野井 和 代=文
text by Kazuyo Sakanoi



 皆さん、こんにちは。今回は南極の真冬における日常生活、そしてオーロラ観測の様子についてお伝えします。
 昭和基地は、南緯69度、東経39度の南極大陸のリュッツオ・ホルム湾にある東オングル島の上に位置しています。このような高緯度の地域では、真夏には太陽が沈まない“白夜”、逆に真冬には太陽が昇らない“極夜”と呼ばれる期間があります。今年、昭和基地では、6月1日から7月13日までがこの極夜期でした。それでも太陽は正午前後の数時間は地平線すれすれまで昇ってくるので、午前10時ぐらいから午後2時頃までは日の出直前の明るさになり、屋外作業はこの貴重な数時間のうちに行います。
 太陽が昇らないと、活発な感じがなくなるように思います。そこで、この雰囲気を振り払うためでしょう、南極にある基地ではどこでも冬至の頃、数日間は“ミッドウィンター祭”というお祭りを催して楽しむことになっています。私たちの隊では、演芸大会、スポーツ大会、クイズ大会、キャンプファイアー、花火、露天風呂などなど前夜祭を入れると4日間、全員で大騒ぎでした。
 ここで越冬しているのは二十代〜五十代の39名です。日本では大の大人がこんなに無邪気に騒ぐことはないであろうと感心するほど、みんな一生懸命イベントを企画し、そのために必要な物を作り、練習を重ね‥‥と準備は1カ月前から始まります。実はお祭りそのものよりも、この準備期間が大切なようです。1日の仕事が終わった後、寝る間も惜しんで準備を続けていると時間があっというまに過ぎていき、ミッドウィンター祭が終わって気づいてみると、「あと1カ月もしないうちに太陽が出て来るんだ」と前向きな気分になっています。
 ところで、この極夜期は、暗くなければ見えないオーロラを観測するには絶好の条件です。この時期の観測は午後4時頃に始まり、次の日の朝8時頃まで続きます。この間ずっとオーロラが見えているわけではありません。オーロラ活動が静かなときには長時間、ほとんどオーロラが見えないときもあります。しかし、オーロラが活発になると、夜食のお弁当を食べる暇もないほど忙しいこともあります。こんなときは、だいたい1時間半〜2時間ほどのサイクルでオーロラの様子が一晩に何度も変化します。


「アデリーペンギン基地来訪」
(撮影:1996年12月/昭和基地)
コウテイペンギンに比べて、アデリーペンギンは頻繁に
見られ、基地にも何度か見物にやって来ました。

 まず、昭和基地よりも高緯度側の空に白い光の帯が現れます。この帯が1時間から30分ぐらいのうちに、ときには薄緑のカーテン状になりながら昭和基地の真上を通り過ぎ、低緯度側の空へゆっくりと動いていきます。そして、しばらくすると、この光の帯の一端が急に明るくピンクや緑などに色づき、そこから急激に動きや明るさが増していきます。明るく色づいたオーロラは瞬く間に全天に拡がり、形もものすごい速さで変化します。この変化はものの数分もかかりません。このように急激にオーロラ活動が活発になることを”オーロラ爆発(オーロラブレイクアップ)”といいます。そして、5分〜20分ほどこのような状態が続き、だんだんともとの静かな光の帯にもどってゆく、というのが1サイクルです。オーロラ爆発のときの動きの速さ、形の複雑さ、そしてスケールの大きさには、ただただ息を飲むばかりです。全天にピンクや緑の光の波が乱舞し、押し寄せて来る様は、その圧倒的な明るさと動きにめまいすら覚えるような感じがしました。
 オーロラの観測は、10月に終わりました。今、太陽は真夜中の3時間ほどしか沈んでいません。気温がぐんぐん上昇し、ペンギン、アザラシ、鳥類など生き物が昭和基地の周りに戻ってきて、南極は駆け足で春を迎えています。



さかのい かずよ
1971年生まれ
東北大学大学院理学研究科助手
専門:超高層大気物理学