シモバシラの霜柱
子供の頃、霜柱の細い氷が集まって小石を持ち上げている様に驚いた記憶は鮮明です。シソ科の多年草にシモバシラという植物があります。花も目立たないありきたりの草です。しかし、それが初冬に大変身をするのです。
よく冷え込んだ朝、枯れたこの草の根元を見ると、茎から鰭状に氷が張り出し、まさしく、霜柱となって氷の彫刻を作っています。これは茎の維管束の中の水が凍って茎の外へと伸びだしたもので、持ち上げているのは小石ではなく、茎の表皮です。それがこの植物の名の由来です。一度これが出来ると茎の構造は壊れるので一年にたった一度だけ、シモバシラが咲かせる冬の花というわけです。それも、見事なものが出来るには、初めての寒波で急激に冷え込んだときに限ります。
シモバシラは関東以西に分布する草本で、本園のものは栽培しているものです。同じシソ科で園内に多く自生しているテンニンソウにも、霜柱が出来ます。これらに霜柱が出来る頃、植物園は長い冬の眠りへと入ります。
(理学部附属植物園長 鈴木三男)