本学大学院医学系研究科の大隅典子教授らは、多価不飽和脂肪酸の一種であるアラキドン酸が神経新生を促進し、精神疾患予防に役立つ可能性を発見しました。野生型のラットを生後4週までアラキドン酸を含む餌を与えて飼育し、神経新生の様態を解析したところ、対象群よりも約30%神経新生が向上することがわかりました。また、脳の発生・発達に重要な遺伝子が変異したラットにアラキドン酸含有餌を投与したところ、やはり神経新生は向上し、精神疾患様行動に改善する傾向が認められました。これらのことから、アラキドン酸を摂取することで、精神疾患の発症予防や治療に役立てる新たな視点が導かれました。 |
イギリスのケンブリッジ大学R. E. Goldstein教授と、本学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻の石川拓司准教授の共同研究グループは、淡水に生息する遊泳微生物で藻類のボルボックスが、愛らしいダンスを踊る姿を発見しました。ダンスは、直径0.5mm程度の球表面を形成する各細胞から伸びた、2本の鞭毛と呼ばれる毛が起こす周囲の水の流れで生じます。2つの個体が周囲を回転しあう「ワルツ」や、付いたり離れたりする「メヌエット」の安定したダンスが確認されました。このダンスは、生殖期にボルボックスの個体同士が出会う確率を上げることに役立つと考えられています。 |
日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門の岡根哲夫研究副主幹、東京大学大学院・理学系研究科物理学専攻の藤森淳教授、京都産業大学大学院・理学研究科物理学専攻の山上浩志教授、本学大学院・理学研究科物理学専攻の青木晴善教授などの共同研究グループは、世界で初めて、見かけ上大きな質量を持つ「重い電子」が形成する、金属の「フェルミ面」の直接観測に成功しました。これにより、重い電子が担う電気伝導の性質が金属ごとに判別可能になります。さらに、こうしたフェルミ面の形成時に発現する超伝導や磁性の様子を系統的に明かすことで、磁性と共存する不思議な超伝導の機構の解明へと導きます。 |
宮城県の(株)サイバー・ソリューションズと、本学電気通信研究所の白鳥則郎教授らは、次世代ユビキタスネットワークに新たに登場する「移動ネットワーク」の監視・管理の基盤技術、「NEMO-MIB (Network Mobility Management Information Base)」を、世界に先駆けて開発。2009年4月14日にインターネット国際標準化組織(IETF)の認定を受け、この新技術の国際標準規格化を果たしました。「NEMO-MIB」は,ネットワーク自身が移動する「移動ネットワーク」を遠隔から常時監視する技術として期待されており、総務省の「SCOPEプロジェクト」の開発支援を受けていたものです。 |
本学大学院工学研究科・安藤康夫教授のグループは、世界最高性能の「強磁性トンネル接合(磁石を用いたナノ構造デバイス/Magnetic Tunnel Junction)」を開発しました。MTJは、省電力の次代環境対応型電子デバイスとして期待される「不揮発性集積回路」に、不揮発性記憶機能(電源を供給しなくても記憶を保持する機能)の性質を持たせる役割を果たす素子です。今回、開発を果たした高性能MTJ素子は、磁気抵抗効果において、これまでの素子構造でマークした最高値の604%を大きく上回る、世界最高の1056%の値をマーク。同集積回路の実現へ大きな前進となりました。 |
東京都の(株)日立製作所と本学金属材料研究所は、共同で、電子の磁気的な性質を示す「スピン」を制御する、スピントロニクスデバイスのシミュレーション技術を開発しました。これは、量子力学的な手法により、「スピン」の流れと、電子単位のスピントルクを計算し、この結果を磁化の動的シミュレーションに組み入れることで、磁化を反転させる電流を予測する技術です。この技術を、これまで解析できなかった2層の強磁性体からなる磁性多層膜に用いたところ、磁化が反転する電流を予測できることが分かりました。この成果は、磁性多層膜を利用したスピントロニクスデバイスの現象解明や設計に道を拓きます。 |
本学理学研究科・岩井伸一郎教授、本学金属材料研究所・林孝彦准教授らは、光によって有機絶縁体を金属や超伝導物質へ瞬時に変化させる仕組みを発見しました。従来の手法である原子置換による伝導キャリアの注入法は光照射によって行えるものの、高強度の光照射が必要であり、物質自体が損傷するなどの問題がありました。そこで、2つの分子の対(二量体)を構造単位とする有機物質を用い、特定の波長の光(近赤外光)を当てることで、絶縁体−金属の制御を効率よく行うことに成功。この技術は、従来の光キャリア注入法とは全く異なり、今後、光誘起超伝導など新しい物理現象の開拓につながることが期待されます。 |
本学多元物質科学研究所の米田忠弘教授らは、走査トンネル顕微鏡—電子スピン共鳴分光(STM-ESR)装置の検出精度を飛躍的に向上させることで、室温において原子レベルの精度でスピンの位置決定と化学分析を行うことに初めて成功しました。磁気ディスクの集積化によって、磁気材料は単一のスピンに近づいている今、この成果は画期的です。また、固体素子との相性もよく、トンネル接合を持った固体素子に組みこむことで、スピン検出ができる可能性も見込めます。この成果は、米国学術誌「Applied Physics Letters」に受理され、オンライン版で公開されます。 |