金属結晶の不思議な世界 2
鉄鋼材料中の樹枝状マンガン硫化物
 雪を顕微鏡でみるとさまざまな形状の結晶が観察されることが知られています。この雪の結晶形状は、雲に含まれる水蒸気が冷やされて氷の結晶を発生する際の温度や冷却条件が影響します。同様の現象は、溶けた合金が凝固する時にもみられ、結晶の形態や大きさが強度などに影響することから、金属材料学的にも大変重要な現象です。
 写真は、鉄鋼材料中のマンガン硫化物を走査電子顕微鏡で観察したものです。電解腐食処理により金属部分を除去することにより、木の枝のように成長しているマンガン硫化物を立体的に観ることができます。このような形状の結晶は、樹枝状晶(デンドライト)と呼ばれ、マンガン硫化物に限らず、一般の金属の凝固でみられる形態で、過冷却(凝固点以下に冷却された状態)された液体中で結晶が成長する時に見られます。このマンガン硫化物は、鉄鋼材料の合金成分であるマンガンと不純物成分である硫黄が凝固中に反応して生成したものです。
 マンガン硫化物の形状は、合金元素や冷却条件の違いによってさまざまに変化します。工業的には、鉄鋼材料を削りやすくしたり、また高強度にしたりと、その使用目的に応じて最適な形状のマンガン硫化物を鉄鋼材料中に均一に分散させます。
東北大学大学院工学研究科 及川 勝成
 


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